死へ向かう≪生存組合≫ -感染×少女-

Deino

第1話『わいせつ物陳列罪の無い世界』

「会いたいなぁ。もう一度、会いたいなぁ……」


 あの日、3月15日はウチの18の誕生日だった。素敵な日になるはずだった。大学受験も無事終わっててさ、家に帰れば両親が待っててくれて、ウチの為に用意された美味しそうな誕生日ケーキがあってさ。

 それに、それにもしかしたらアイツも……もしかしたらだけど、ウチにプレゼントをさ……

 それが……



   * * *



「毎回思うけど、こんな形で夢が叶うなんてなぁ」


 白昼の街中で、ウチは下半身裸でうろついていた。普通ならわいせつ物陳列罪でソッコー捕まる犯罪。でも悲しいかな、ウチは誰にも注意されない。

 パンデミックから2か月弱。春の優しい風が股間をすり抜けていく。



「露出癖、があったんだよなぁ。性器を皆に見られたい? みたいな。社会的に死ぬからそこそこ我慢してたけど」


 だからこうして社会的に死なない今、性器を晒しながら街を闊歩している訳だ。やったね。夢が一つ叶ったよ。誰もそんなウチに驚いてくれないけどね。さげすんでくれないけどね。興奮してくれないけどね。

 こんなにも人の気配があるのに。

 ウチはとある事情により両足が義足だ。それも人の皮膚に一切似せない、メカメカしい義足。丸出しの女性器に義足とあれば普通なら注目度は高いものだろうに。


 いつから露出趣味に目覚めたのかは覚えてないが、一度やってみたかった。それまではこっそりノーパンで登校したりとか、その程度の露出で押さえていたが……今やもう丸出しである。

 人の気配は多い。そして実際注目も浴びている。でもそれはウチが望む形では無くて、全然性的に興奮も出来なくて……

 だって、だってウチが注目されてるのは──



 ウチが、生きているから。



 周囲にある人々の気配は、いわゆるゾンビという奴だ。おびただしい数のゾンビが市街地を闊歩し、生きてるウチ目掛けて迫ってきている。こんな事、映画の中の出来事だと思ってたよ。ロメロ監督もビックリだ。


 ……このゾンビはパンデミック型、最近流行り、というかむしろフィクションの世界では主流になったウィルスやら何やらで感染していくタイプのゾンビだ。呪術の類ではない。たぶん。


 本当に彼等は死んでいるのだろうか? 感染し、行動パターンがゾンビ化しただけで、まだ生きているのではないか? もしかしたら内心は正常な思考が出来てるかもしれない。そういうテーマのゾンビ作品もあったよな。


 その仮説を証明する事は出来ない。でも、否定する事も出来ない。もしかしたら苦しんでいるのかもしれないという疑念を、捨てる事が出来ない。助けてって、叫んでるかもしれない。

 だから──



「解放してあげる」


 今日もウチはゾンビを"殺す"ために武器を振るう。



   * * *



 周囲のゾンビはあらかた狩りつくした。死体だらけの中で下半身を晒すウチ。結局、誰も見てくれなかったな。

 生きてる女性はまだいる。でも、ウチは異性に見て欲しいんだよ。男性のいない世界で性器を晒しても空しいだけなんだ。あいにくウチには百合属性は無いから……



 男性のいない世界。大人のいない世界。



 ゾンビを作り出したウィルスと思われる感染源は、ひどく都合の悪い感染の仕方をしてみせた。若い女性のみ、この世に残して……この地獄に残して、他の人を全員ゾンビに変えてしまった。

 もちろん噛まれれば映画よろしくゾンビになるが、初期の空気感染では若い女性だけが生身の人間として残った。いっそ全員感染してくれれば、そうすればウチも皆と一緒にあの世に行くか、彷徨うか出来たのに……


 大好きな人が沢山いた。沢山、沢山いたんだ。父さん、母さん、友人、そして、そして……



「ウチはさ、お前に見てもらいたかったんだよ。エムジ……」


 散らばる死体の顔の中に最愛の幼馴染がいないことを確認してつぶやいたウチの言葉は、空しく宙に消えた。


 遠くから仲間がやって来るのが見える。向こうもゾンビを殺し終えたみたいだ。



「どお見つかった? シーエ」


「ダメだよ。アルビのおじさんも見つからない……そっちは?」


「ボクも同じく。ほんと、どこ行っちゃったんだろうね……」


「そうだな……」


 空を見上げる。ゾンビに意識なんか無く、魂なんか無く、みんなまとめてあの世へ行ってくれてれば良いんだけど……こればっかりは自分も死んでみないと解らないしな。もし地上に縛り付けられてたらと思うとぞっとする。



「とりあえず戻ろ? そろそろ日も暮れるし」


「だな。明日は橙子とうこの番だし、気合入れないと。アルビ乗ってく?」


「うん」


 背中にアルビを背負い、ウチらは帰路に着く。魔改造されたウチの義足はローラーブレードの様に街を滑走し、自分達の生存組合へと向かう。



 生存組合。


 樽神名たるみなアドという女性が考え出したこのシステムは、混乱を極める渚輪ニュータウンに秩序をもたらした。

 少女たちは"生き残るため"にこのシステムに従い、ギリギリの日々を過ごしている。──ウチの所属する生存組合『ドロマイト』を除いて。


 ウチらは生を望まず、死へしがみつく生きた亡霊だ。生きる気の無い、死へ向かう生存組合──

 さぁ帰ろう。幸せな死を手に入れるために。あの世で、もう一度大切な人に会うために。


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■シーエ ビジュアル

https://www.pixiv.net/artworks/79990114


■アルビ ビジュアル

https://www.pixiv.net/artworks/80013552


■囚人Pによる 感染×少女 本家シナリオはこちら

https://kakuyomu.jp/works/16817330647536952355

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