無職透明日記
森上サナオ
水槽に小エビを飼うように
6月1日をもって、晴れて無職となった。
「無職」といちばん相性がいい言葉は当然「透明」であろう。
人生でそう何度も無職になる機会もないだろうから(そうであってほしい)、せっかくなので日記を書いて公開することにした。
妙に硬い文体なのは、柔らかい文体だと後々読み返したときに「キッショい文章書いとるなコイツ」と思う気がしたからと、硬い文体でトンチキなこと書いたらギャップで面白く見えるかも……という打算が入り混じった結果である。
しかし無職透明。実にきれいな言葉だ。
ガラス製の水槽に満たされた冷たく透き通った水、そこに差し込んだ光が床にきらきらと七色の光の粒を散らしている様が脳裏に浮かぶようだ。
しかし、幼い頃ザリガニの水槽の水を腐らせたことのある読者諸君ならば、放置した水槽が四角いスーモのような有り様で悪臭を放つことは先刻ご承知のことと思う。
こんな話を小耳にはさんだ。
アクアリウムをする際、水槽に小エビを入れておくのだそうだ。
すると、小エビが水槽内の藻を食べて、水槽が濁るのを防いでくれるらしい。
ここまでくれば、賢明な読者諸君ならばタイトルの「小エビ」が何を指すのかもううっすらお察しのことと思う。
小説を書くことはかれこれ二十年以上続けているが、日記に関してはこれまでことごとく三日坊主だ。
人生で何度かあった「日記でも始めてみようかな」というタイミングの全てで、みごとに三日坊主で書くのを辞めている。酷いときには一回しか書かずに途絶えている。
しかしふと思いついた。
本当は、この日記は6月1日に始めるつもりだった。しかし本日は6月3日である。
つまり、1日に始めていれば3日で途切れていた日記が、まだ終わりを迎えていないどころか、今まさに始まったばかりなのだ。もはや三日坊主を脱したと言えよう。
そもそも、誰にも読まれない文章というものを書くことが苦手なのかもしれない。
小説にしろ、ツイートにしろ、それは性質上「誰かが見る可能性を含んだ文章」だ。一方日記は、基本的に個人のためのもので、言ってしまえば自己満足の文章とも言える。
三日坊主で終わってしまう原因が「誰にも見られないから」だとしたら、日記を公開してしまえば、多少なりとも誰かの目に留まる可能性が生じ、その結果、承認欲求が満たされることで長続きするのではないか、という自転車操業的発想のもと、この日記は書かれている。
せっかく無職透明になったのだから、もう少し透明でありたいものだ。
読者諸君を小エビと称すること、どうかご寛恕いただきたい。
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