第3話 残したもの残された者
きょうは、引っ越しのバイトか、相変わらず人使い荒いな。
あ、ちがう、神使い荒いな、やな。
うーん人間界来て、もう300年はたつけど、技術の進歩すさまじいな。
ここ50年ぐらいの。
そういって、まぶしそうにビル群をみつめる。
よしゃ、まあいろいろ思うとこあるけど.....上層部に文句いってもな.....、あの爺さんども頭固いし、気持ち切り替えて現場に行くかな。
しかし引っ越しのバイトって、きついんよな。年寄りになにさせんねんまったく、荷物も重いけど気も重くなってきたわ。
「おはようございます。本日はよろしくおねがいします。」
目の前にある、立派だが古い一軒家が、なぜか威圧感をはなっているように思えた。
それと同時に、なぜか悲しそうでもあった。
ふうーなんや大変そうやな、今回の荷物重そうやいろんな意味で。
玄関があき、一人の男性が頭を下げて言った。
「こちらこそよろしくおねがいします。」
今日の依頼主は、この人か。30、40代ってとこかな。
若いんだか年取ってるんかわからんな。
あ、俺もそんな感じによう言われるもんな。人のこと言えんな。
でもなんやろこの人、なつかしいような、むかしあったことあるようなそんな気がせんでもないな。
まあええわ仕事や、よし気合い入れて運ぶで。
今日のバイトには、俺のほかに2人おってな、ひとりは同じバイト仲間の菱口くん
それと正社員でドライバーの滝本さんの二人や。
二人ともベテランやし汗もかかずに運んでるは、さすがやな。
おれもがんばらな、ふぅーしんどいけどな。
滝本さんが、快活そうに声を上げた。
「さすがだね、親太朗君あれを一人で持ち上げるなんて。」
「いやーそうですかね?見た目より軽かったですよ。」
ははは、さすがだよ。とかなんとかいいながら――
俺が運んだものより絶対重そうなやつ、平気な顔して持ってる。
うへぇー、あんたこそすごいわ。
えーとつぎはこれかな、うん?なんやろこれ.......なつかしいな、なんか。
なんかみたことあるでこれ、うーん思い出せんな。
親太朗は、何とも言えない表情で子供の落書きが書かれた段ボール箱を見つめて、動かなくなってしまった。
「あれ?どうされたんですか?」
今日の依頼主である男性がおそるおそる親太朗に声をかけた。
「あ、すいません。なんかなつかしいような、変な気持ちになってしまってその段ボールみてたら。」
男性も、なんだか複雑な表情を浮かべながら言葉を紡ぐように言った。
「あ、それ……親父の遺品なんです。
昔、俺が落書きした段ボールで……。
あの人、それに大事なもん入れてたみたいで……ちょっと、処分しにくくて……」
うーんなんやろこの違和感、なんか処分っていわれてムッとしてもうたわ。
「そうなんですね、これどうされますか?...... 処分されるならうちで処分しときますが.......」
依頼主の男性はなんだか複雑な顔している。
「うーんそうですね少し考えてもいいですか?」
なんかワイその言葉聞いてホッとしてる自分がおった。
「わかりました。いつでもいってくださいね。」
おもむろに依頼主の男性は、段ボールに近づき、中を開けた。
ワイ、その様子が少し気になって、チラチラ見てた。
仕事するふりしながら、なんや……ざわざわすんねん。
さっきからなんやろ、うーんわからん頭が混乱する。
こんなこと初めてや、300年この人間界におってこんな気持ちになったのは、
そういえばワイ人間界に来る前って何してたんやろ、うーんそのまえ多分神界に、
おったきはするんやけど、いや違うか、なんやろ靄みたいなん、かかってておもいだせん。
ふうーわからんもんはわからんし、
しかしいつも中級神の管理神からバイトここ行けとか
あっちのバイト行けとか指令くるんやけど、
きょうはめずらしくというか最高神の爺さんから直で、このバイトいけ言われたな。
なんやろなんかあるんかな?
「どないしたん?親太朗君?なんや思いつめた顔して。」
「いえ、すいません、なんでもないんです。」
そのとき依頼主の男性、段ボールの遺品から手を放してこっちに近づいてきた。
「親太朗さんっていいはるんですか?お名前。」
うん?なんやろなんか不思議な気持ちや、なんか恥ずかしいようなうれしいような。
「はいそうです、ぼく橘 親太朗いいます。」
なんか複雑さの中にうれしさっていうんか、そんな表情してる依頼主の男性。
「偶然ですね......うちの亡くなった親父も、“親太朗”って名前やったんです。」
それ聞いてはっとした、うん?なんやろなんか思い出せそうな。
「あの、どうされましたか?」
心配そうにこちらの顔を覗いてくる依頼主。
「えーと......... あなたのお名前聞いても、よろしいでしょうか?」
「ああ、申し遅れました、高木 真一といいます。」
ワイのおぼろげな記憶が、確信にかわった瞬間やった。
「そうですか、真一さんと言いはるんですね。」
そうかそういうことやったんやな、いい面構えの大人の男になったな。
ワイ恥ずかしくなって、背中向けた。
「あのどうされました.....」
ワイ背中向けたまま答えた
「いえなんでもないんです、目にゴミは入ったみたいで。」
真一は何か言いかけたみたいだったが。
それは言葉にならず霧散した。
「じゃあ仕事にもどります、遺品処分が必要なら言ってくださいね。」
「はい......ありがとうございます。」
真一は、そう答えて段ボール箱の近くに戻って懐かしそうな顔してる。
「親父……これ、まだ捨てんでよかったな」と小さくつぶやいた。
まあこれでええねん、ワイは神やで、神様やで............
無事詰め込み作業も終わり、トラックの扉閉めようとしたとき、
真一がやってきて。
「あのこの段ボール箱もいっしょにに積み込んでいただけますか?」
ちょうど扉を閉めようとした、滝本さんがこたえた。
「はい、それで最後でしょうか?」
「ええ、これ大事なものなんでお願いします。」
ワイその光景、助手席のミラーから見てた。
う、まぶしいミラーの光が跳ね返って、目から汗出るわ。
「ほんま、よう汗かく日やな。なあ真一。」
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