第38話近づく終わり。昂る気持ち。

 試験三日目が終了した。

 残る科目はあと古典と物理学のみ。明日行けばあとは修了式を行えば夏休みだ。

 

「じゃーな千都!明日も寝坊すんなよ」

「じゃあね千都くん。蘭ちゃんも」

「おう。じゃーな」


 奏斗と瑞樹と別れていつもの帰路を鈴森と歩く。

 初夏の訪れを感じさせる夕暮れ。最近はだいぶ日も長くなってきた。ここから本格的に夏に向かって行くのだろう。

 夕暮れに気をとられていると、俺の腕に鈴森の腕がするすると巻き付いてきた。


「えっ」

「……なによ。もうちょっとこっち寄りなさい」


 急な行動に驚いたのはもちろん、鈴森がこんな大胆な行動に出たことに対して俺は驚きを隠せなかった。

 路地を見ると、歩いているのは俺と鈴森だけ。二人きりの世界だ。


「きょ、今日の試験はどうだったのかしら?私は問題なく解くことができたけれど」

「んー、大体そつなくできた気がするけど……強いていうなら日本史がちょっと怪しいかもな。ちょっと忘れてたところ多かったし」

「ま、大体できてるなら問題はないわね。良かった。貴方だけ補修になって一緒に行けないなんてことにならなくて」

「……一緒に行く?どこに?」

「えっ……貴方まさか……」

「嘘嘘。夏祭りだろ?覚えてる。だからそんな睨むな。忘れるわけないだろ」


 からかわれたのが気に食わなかったのか、鈴森はむすっとした表情になった。前までだったら酷い罵詈雑言が飛んできたところだっただろう。嫌なところで関係の進展を感じてしまった。


「結構大きい祭りだから、込み合うだろうな。あ、アレ」


 通りすがりに遠くに見えた神社を指さした。鈴森の視線は俺の指先の方に吸い込まれていく。


「あそこ、お祭りで屋台が並ぶところなんだ。人は集まるけど眺めはいいから、当日はあそこで花火見よう」

「へぇ……詳しいのね」

「まぁ、去年も行ったし。鈴森は行ったことないのか?」

「この季節は地元に帰ることが多かったから、そっちの方の祭りにだったら行くことが多かったわね。こっちのは初めて」

「そっか。じゃあ俺が初めての男だな」


 冗談交じりに言ってみると、俺の脇腹がつねられた。


「いててて……」

「調子に乗り過ぎ」

「ごめんなさいごめんなさい……別に馬鹿にしてるわけじゃないから」


 そんな言い訳をしてみても、鈴森のへそは曲がったままだった。

 彼女らしいななんて思う反面、こんな軽口を叩ける関係性になったなんて、嘘みたいな話だった。女王様の尻に敷かれた状態だけど、こんな状況も悪くないななんて思う。


「当日の話なのだけれど……いい?」

「え?」

「……浴衣の方がいい?」


 鈴森蘭の浴衣姿。普段より魅力的な彼女が浴衣を身にまとい、その長い髪もおめかしして、俺だけのために着飾った姿はきっとさぞかし美しいのだろう。この一瞬でそんな事を考えてしまった俺は、思わず言葉を失ってしまった。


「……あぁ、うん。鈴森の浴衣姿、見てみたいかも」

「そう。なら特別に着てあげる。貴方のためにね」

「光栄です姫君」

「それはやめて」


 鈴森にまた脇腹を小突かれて俺は笑った。彼女とのお祭りデートを楽しみにしている自分が浮かれすぎだな、なんて思いながらも家路を辿るのだった。

 

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