第34話残る二人。近づく祭り。
「はーぁ、疲れた……」
奏斗の呟きが勉強後の緩んだ空気の中に消えていった。
勉強会は3時間に渡り続いた後、解散の流れとなった。各々やるべきことは終わったようだが……奏斗の手元にはいまだに課題が山積みになっている。
「……お前、それ終わったの?」
「え?まだ」
「奏斗くん、途中から手が止まってたもんね……」
「まぁ、期限までには終わらせるから!そんじゃ!」
奏斗と瑞樹が揃って外に出ていくのを見送る。二人が去り、賑やかだった部屋の中にほんのわずかな寂しさを感じたところで俺は残った彼女に目線を向けた。
(……なんで残ってるんだこいつ)
リビングのソファには鈴森が座っていた。奏斗と瑞樹と共に帰るもんだと思っていたのだが、なぜか一人残っている。
なんの目的があってなのかと困り果てている俺をよそに、鈴森は話し始めた。
「課題の進捗はどう?」
「まぁぼちぼちだな。お前のほうは?」
「まぁまぁね。別に今までもやってきたことだから、急ぐことではないわね」
そんな上辺だけの会話はすぐに終わりを告げた。その会話には意味なんて存在していない薄っぺらいものだったが、鈴森が何か俺に探りを入れようとしていたことは明白だった。
「……最近、暑くなってきたわね」
「そうだな。もうすぐ夏休みも近づいてきてるし……鈴森、お前夏休みはなにか予定はあるのか?」
「特に決まってないわ。ただ……」
そう言いかけたところで一度鈴森の口が止まった。その麗美な横顔には一瞬迷いの感情が見えて、俺はどうしたのかと聞き返そうか迷ったが、彼女の返答を待つことにした。
「……今度の週末、夏祭りがあるわね。私ちょうど予定が空いているの。まぁ、貴方がどうしてもと言うのなら、付き添ってあげなくもないわ」
つんととんがった言葉の矛先が俺に向けられる。もっとも、その槍を持っているのはか弱いお姫さまであるため、脅威ではないが。
「今度の週末か……まぁ、予定もないし、いいぜ。夏休み、行こう」
俺の返答に、鈴森の肩がわずかに跳ねたように見えた。最近はチンピラ先輩関連のことで学園と家とを行き来する日々が続いていた。このままなのも気が滅入るし、多少は遊んでも罰は当たらないだろう。
「じゃあ奏斗と瑞樹も呼んで……」
「……ダメ」
「え?」
「ダメ。……二人がいい」
その言葉は俺を誑かすための甘言か、はたまた彼女の心が溢してしまった本音なのか。そんな想像で俺の脳内はぐちゃぐちゃに搔き乱された。
いじらしく遊ばせた指先は髪をくるくるといじり、視線は気まずそうに宙に漂っている。彼女の言葉の裏に隠れて見えなかった真意が、今なら見えそうな気がした。
「……あ、あの二人は予定があるって言ってたから……行くなら二人よ」
「……そ、そっか……じゃあしょうがないな。二人で、行くか」
「約束よ。二人で、ね」
妙に強調された『二人』というワードに俺は心を弾ませるのだった。
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