第30話 ごめん

「咲、会いたかった~」


 桜井がふにゃけた声で北野に抱きついた。ふざけているんだろうけどなんて大胆なんだろ。女子同士はこんな感じなのか?


 北野が玄関で俺たちを迎えた時、彼女はパジャマ姿だった。桜井の頭を撫でて子供をあやしているようだった。

 それから、俺たちは彼女の部屋に入った。


「これ、フルーツケーキ買ってきたよ」


「やったぁーーー」


 コンビニのカップケーキだった。

 俺が袋ごと渡す。それを見て北野は嬉しそうだった。飛び上がるようなテンションとはこのことだろう。可愛いな。


「咲の好きなのだから」


桜井は北野に言った。


「俺は病み上がりに甘い物が大丈夫かなと思ったけど、好きなものならいいのかな?」


「大丈夫よ。これでエネルギーの補給になるんだから」


北野が真剣な顔をして俺に言った。


※※※


北野がケーキを食べ終えた頃、俺は席を外した。

 お手洗いを済ませた俺は北野の部屋のドアに手をかけた。すると、二人の会話が聞こえてきたのだった。

 俺はその会話を立ち聞きしてしまった。桜井が北野に俺のことを聞いている。


「ねえ咲。青山君さ、大分変わったよね。堂々としている感じが」


桜井が言っていた。それについて北野が答えた。


「なーに? もしかして春、彼のこと好きなの?」


桜井に茶化している様子だ。


「そうね。好きになってるかも(笑)」


「わー! ずるい。私が先よ(笑)」


「ダメ。私が彼女になるんだから(笑)」


そして二人の笑い声があった。

 なんか入りずらいな。俺はドアにピッタリとくっついて離れられなくなった。

 

 すると、桜井の声だろうか? 突然涙をすするような声がする。


「本当はね・・・・・・私」


 俺はそこで彼女の行動を止めようと部屋に入ろうかと思った。約束を破る行為だからだ。それに、今北野に告白しても彼女は戸惑うだけだ。だから。


「いやー、ごめん遅くなりました」


俺はドアを開けて中に入った。

 すると、二人は固まったように俺を見た。


「え? 何かした?」


俺が聞く。


「うそ、全部聞いてたでしょ」


桜井が俺をからかっていた。


「どうなの? 青山君」


北野も一緒になって言う。


「う、ごめん聞いてた」


これに二人は笑うように声を上げた。


「可愛いーーー、青山君(笑)」


桜井が言った。


「本当、中学生みたい(笑)」


北野も言う。


 このまま笑われるだけで終わりたくなかった。だから俺は怒るように真剣になって言った。


「じゃあさ、どっちが七夕祭で一緒になってくれるの?」


 あっ、しまった。


「「・・・・・・」」


 これって告白じゃないよな?


「何それ、告白?」


北野が言った。


 そう受け取られてしまうよな。


「いや、あのさ、それって」


 ああ、もうダメだ。


「桜井さん、ごめん。俺ダメだ。嘘をつけない」


俺が頭を下げた。すると


「バカ・・・・・・」


桜井が俺を見ている。


「ねえ? 本当なの? 大地君」


この呼び方に桜井は反応した。悲しげな声で言う。


「もう、そんな仲だったんだね・・・」


 北野が黙って桜井との目線を合わせなかった。


 桜井は泣き出した。そして部屋から出て行った。


※※※


 この日以降、桜井は学校に来なくなった。俺のせいで彼女を傷つけ、取り返しのつかないことをした。

 

 そうして俺は、特別更生プログラム最後のミッションを迎えることになった。

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