第25話 大地君と呼ばれた
俺と北野はコンビニでケーキを二つ買った。それを北野と一緒に食べるのだ。
帰ってからリビングのテーブルに二つのケーキが置かれた。北野のケーキにろうそくを挿した。 部屋の電気を消し、ろうそくに火をつけた。
「じゃあ、いくよ」
俺が合図しハッピーバースデーの歌をうたう。そして北野が火を消した。
「ありがとう」
北野は嬉しそうだった。笑顔があふれている。
「大地君も、食べて」
大地君。下の名前だ。
俺はドキッとした。まるで、恋人みたいじゃないか。
……なんて考えた俺が、一番びっくりしてる。
「北野さん、いつも優しいね」
ずっと気になっていたことだった。
「・・・・・・」
彼女は恥ずかしそうになりながらも話した。
「プログラムを説明した日ね、私本当は厳しく指導するつもりだったの」
北野は手に持っていたフォークを置いた。
「でもあの時、大地君が頭を下げてお願いしますって言ったじゃない? だから真面目なんだなって思って考えを変えたの」
「でもそれだけで?」
「それ以外にもある」
彼女は続けた。
「私と帰ろうとしたでしょ? ちゃんとそれを話してくれたじゃない? 勇気がいることなのにね」
俺は彼女が話す顔をじっと見た。
「だから大地君を見捨てたらダメなんだ。彼にはきっと、優しさが必要なんだなって、思ったの」
そうだったのか。俺はただ正直に思ってしただけなのに。それは良かったんだな。
「正直にやってよかった」
俺はほっとした。
「でも、強い想いは通しちゃだめよ?」
彼女はふふふと笑うように言った。
「うん、分かってる」
しっかりとわきまえて行動する。それが大事なんだ。
こうして、俺と北野はケーキを食べ終えた。
「ねえ、そういえばそろそろ七夕祭がある頃じゃない?」
「七夕祭って地元のお祭り?」
俺は答えた。
「ちがう。学校の文化祭よ。オリエンテーションで説明されたじゃない」
そうだっけ?
俺はそういう行事が好きではなかったから忘れていたのか。まあ、男女の馴れ合いの場という感じがして好きではなかったんだよな。けど今だったら。
「近くの川で紙の舟を流すって。短冊を貼ってね」
北野が説明してくれた。
「え? 七夕飾りじゃないの?」
俺は不思議に思った。
「ちがうの、うちの学校だけの行事らしいの」
へー。なんかロマンチックだな。天の川に見立てて願いを海に送る。そんなことか。
※※※
時間があっという間に過ぎて、俺は家に帰ることにした。
北野が手を振って見送ってくれた。俺も返した。
それから帰りの電車の中。俺は北野と一緒に紙の舟を流しているところを想像していた。
今度は俺が彼女を誘う番だ。
課題は山積みだ。
試験に、更生プログラム。春のことも気になるし——そして、あの七夕祭がやってくる。
さて、どうしよう?
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