第21話「美咲の豹変」



Mとの会合から三日後、美咲は銀座の高級レストランにいた。個室に七人の詐欺師が集まっていた。田村、山田、佐藤、鈴木、高橋、伊藤、渡辺。全員が緊張した面持ちで美咲を見つめていた。


「皆さん、お忙しい中ありがとうございます」


美咲の声は穏やかだった。これまでとは違う落ち着きがあった。


「美咲さん、大丈夫ですか?」


田村が心配そうに尋ねた。


「Mから何を言われたんですか?」


山田も不安そうだった。


「色々とお話を聞かせていただきました」


美咲の答えは曖昧だった。


「祖母を騙したのが、彼だったということも」


詐欺師たちは美咲の冷静さに戸惑った。もっと動揺しているはずだった。


「それは、お辛かったでしょう」


佐藤が同情を示した。


「辛い?」


美咲は首をかしげた。


「なぜですか?」


その反応に、詐欺師たちは困惑した。


「祖母を殺された怒りはないんですか?」


鈴木が尋ねた。


「怒り?」


美咲は微笑んだ。


「なぜ怒る必要があるんですか?」


詐欺師たちは美咲の変化に気づいた。これまでの純粋さが消えていた。


「美咲さん?」


高橋が恐る恐る声をかけた。


「はい」


美咲は振り返った。その表情は、これまでとは全く違っていた。


「皆さん、演技お疲れ様でした」


美咲の言葉に、詐欺師たちは凍りついた。


「演技?」


伊藤が震え声で尋ねた。


「私を守る、純粋さに感動した、罪を償いたい」


美咲は詐欺師たちの言葉を正確に再現した。


「皆さん、同じことを言いましたね」


詐欺師たちは言葉を失った。


「まるでマニュアルがあるかのように」


美咲の分析は的確だった。


「で、誰が脚本を書いたんですか?」


「な、何を言っているんですか?」


渡辺が慌てて否定した。


「私たちは本気で」


「本気?」


美咲は笑った。


「詐欺師が本気で被害者を守る?」


その指摘に、詐欺師たちは反論できなかった。


「面白い冗談ですね」


美咲の声には冷たさが宿っていた。


「美咲さん、どうしたんですか?」


田村が困惑していた。


「いつもの優しい美咲さんは?」


「優しい美咲?」


美咲は首を振った。


「そんな人間は最初から存在しません」


詐欺師たちは戦慄した。


「では、これまでの」


「演技です」


美咲はあっけなく告白した。


「祖母への愛情も、詐欺への怒りも、皆さんへの信頼も」


詐欺師たちは絶句した。


「全て計算された演技でした」


美咲の冷静な告白に、詐欺師たちは震え上がった。


「でも、祖母の死は本当でしょう?」


山田が確認した。


「確かに死にました」


美咲は淡々と答えた。


「でも、私が殺したんです」


その告白に、詐欺師たちは言葉を失った。


「殺した?」


「正確には、死ぬように仕向けました」


美咲の説明は冷酷だった。


「Mのオレオレ詐欺を利用して」


詐欺師たちは理解できなかった。


「なぜ、そんなことを?」


佐藤が震え声で尋ねた。


「純粋な被害者になるためです」


美咲の答えは合理的だった。


「被害者の立場は、非常に有用です」


「有用?」


「人の同情を引き、信頼を得られます」


美咲の分析は冷静だった。


「そして、その信頼を利用できます」


詐欺師たちは美咲の正体を理解し始めた。


「あなたも、詐欺師だったんですね」


鈴木が呟いた。


「詐欺師?」


美咲は首をかしげた。


「その表現は適切ではありません」


「では、何なんですか?」


高橋が尋ねた。


「アーティストです」


美咲の答えは意外だった。


「人の心を操る芸術家」


詐欺師たちは美咲の冷酷さに戦慄した。


「皆さんは、私の作品でした」


美咲の評価は冷酷だった。


「どのように反応するか、どのように騙されるか」


「作品?」


伊藤が震えた。


「そうです」


美咲は微笑んだ。


「プロの詐欺師がどのように素人に騙されるか」


「俺たちが騙された?」


山田が愕然とした。


「完全に騙されました」


美咲の評価は厳しかった。


「皆さんの反応は予想通りでした」


詐欺師たちは屈辱を感じた。


「では、島のゲームも?」


田村が尋ねた。


「私が企画しました」


美咲の告白は衝撃的だった。


「Mは私の部下です」


詐欺師たちは絶句した。


「部下?」


「そうです」


美咲は当然のように答えた。


「彼は私の指示で動いていました」


詐欺師たちは理解した。全てが美咲の掌の上だったことを。


「では、賞金の千万円も?」


渡辺が尋ねた。


「もちろん支払います」


美咲は約束を守った。


「ゲームのルールは守ります」


「でも、なぜそんなことを?」


佐藤が理解できなかった。


「研究のためです」


美咲の答えは学術的だった。


「詐欺師の心理と行動パターンを分析するため」


「研究?」


「詐欺の効率化です」


美咲の目的は明確だった。


「より効果的な詐欺手法の開発」


詐欺師たちは美咲の規模の大きさに驚いた。


「あなたは、何者なんですか?」


高橋が恐る恐る尋ねた。


「詐欺研究組織のトップです」


美咲の正体は予想を超えていた。


「二十二歳で?」


鈴木が信じられなかった。


「年齢は関係ありません」


美咲は冷静だった。


「能力が全てです」


詐欺師たちは美咲の能力を痛感していた。


「では、私たちはどうなるんですか?」


伊藤が不安そうに尋ねた。


「選択肢があります」


美咲は提案した。


「私の組織に参加するか、それとも」


「それとも?」


田村が続きを促した。


「今まで通り、小さな詐欺を続けるか」


美咲の提案は明確だった。


「ただし、私の研究対象として」


詐欺師たちは美咲の冷酷さに震えた。


「参加すれば、どうなるんですか?」


山田が尋ねた。


「大規模な詐欺に関わることができます」


美咲の答えは魅力的だった。


「年収は億単位になるでしょう」


詐欺師たちの目が輝いた。金銭への欲望は変わらなかった。


「ただし、条件があります」


美咲は続けた。


「私の指示に絶対服従すること」


詐欺師たちは考え込んだ。


「時間を差し上げます」


美咲は立ち上がった。


「一週間後に答えを聞かせてください」


美咲は個室を出て行った。残された詐欺師たちは、互いを見つめ合った。


「俺たちは、完全に騙されていた」


山田が呟いた。


「あの女子大生が、組織のボスだったなんて」


佐藤も信じられなかった。


「でも、億単位の年収は魅力的だ」


鈴木が現実的だった。


「彼女の組織に参加するべきかもしれない」


詐欺師たちは美咲の提案を真剣に検討し始めた。


一方、美咲は一人でレストランを出た。


「予想通りの反応ね」


美咲は満足していた。


詐欺師たちを完全に支配下に置くことに成功した。


「これで第一段階は完了」


美咲の計画は、まだ始まったばかりだった。


そして、読者は今、初めて美咲の真の姿を知った。純粋な被害者だと信じ続けてきた少女が、実は最も冷酷な詐欺師だったのである。


美咲の本当の戦いは、これから始まることになる。

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