第20話 刑事とドローン③

 メイは徳永の話をすぐにアランとレイに伝えた。

 もしそこに女の子が監禁されているなら、早い方がいい。


 レイはその廃倉庫の様子をメイから詳しく聞いて、一つの案を思いつき、放課後光輝にLIME電話をした。


「あ、光輝!今いい?」

「どうしたの、令くん」


「ドローンの練習にすげ〜いい場所見つけたんだけど、今から行かない?」

「え、行く行く。何処なの?」


「使われてない倉庫なんだけど、〇〇港に近い」

「〇〇港ならチャリですぐだ」

「じゃ、△△で四時半に」


 光輝とレイは時間通りに待ち合わせ場所に集合し、廃倉庫に向かった。入り口には南京錠が掛けられていたが、そばにあったドラム缶の下に鍵があった。これも徳永からの情報だ。外から鍵が掛けられているという事は、中には誰もいないという事だ。


「鍵があるって事は、これ、不法侵入なんじゃないの」

「さすが刑事の子だなぁ。分かってんじゃん」


「え?ほんとに不法侵入なの?」

「ま、いいじゃん、細かい事は」

 レイは構わず南京錠を開けて中に足を踏み入れる。


 倉庫というだけあって、天井が高く、かつて製品棚として使われていたらしい背の高い棚が幾つも乱立し、天井から何に使われていたのか分からない太い鎖がぶら下がっている。ドローンを飛ばすのに好都合な障害物が沢山ある。


「良いな、ここ!」

「だろ?」


 二人は早速ドローンを組み立てて、飛ばした。

 レイは、女児が何処かにいると信じて、奥の方までドローンを飛ばしながら、人を隠せそうな場所を探った。


 一番奥の角に、プレハブの休憩所の様な部屋があった。レイはここだと直感した。

 ドアがあるが、鍵が掛かっていた。辺りを見回しても、鍵の隠せそうな場所はなかった。


 ガラス窓から内部を覗くと、机と椅子とベッドがある。部屋はそれだけで一杯だった。そして、ベッドの上にロープで縛られ、猿轡さるぐつわをかまされた女の子が横たわっていた。女の子は失禁しているようだ。腰の辺りの布団の色が変わっている。


「光輝、お父さんに電話して! 女の子がいる!」

「ええっ、ほんとだ!例の子か⁈」

 光輝はすぐに父親に連絡した。


 レイがガラス窓をコンコンと叩くと、少女が反応した。猿轡をされているので声は出さないが、う〜う〜という微かな声が聞こえて来た。ずいぶん泣いたのか、目の周りが腫れている。


「誰だ!」

 その時、男性の声がした。光輝の父親では無さそうだ。犯人か?


 二人の前に姿を現したのは、四十歳くらいのサラリーマン風の男だった。キチンとしたスーツを身に着けて、革靴を履いている。


 しかし、手元に光るものが見えた。ナイフだ。やはり犯人だろう。

「ここで何をしている」

 男は凄んで見せた。


「ふん、こんな所でゲームか。家でやれよ」

 二人が手にドローンのリモコンを持っているのを認めて、ゲームのリモコンとでも思ったのか、男は鼻で笑った。モニターが何処かにあるとでも思ったのか、男は辺りを見回した。


「それより、この子は誰ですか。何故縛ってこんな所に閉じ込めているんですか!」

 光輝がプレハブを指差して気丈に声を荒らげた。


「お前たちには関係ない。だが、見られてしまったら仕方がない」

 男は二人にナイフを振り翳した。


 二人のドローンは、男の後ろの棚の上に休ませてあった。レイは、素早くリモコンを操作して、男の後ろ頭にドローンをぶつけた。


「クソっ、ドローンか」

 男はナイフを振り回してドローンを叩き落とそうとしたが、レイの操縦技術の方が上だった。


 光輝も自分のドローンを男の顔目掛けてぶつけて来た。二機のドローンに狙われて男は頭を抱えて逃げ回った。


「そこまでだ! 凶器を置きなさい」

 光輝の父親、福田大輝が飛び込んで来た。手には拳銃が握られている。

「お父さん!」


 男は、咄嗟に近くにいたレイの腕を掴んで引き寄せ、首にナイフを突きつけた。

「来るな!」


 福田は焦った。徳永の時のトラウマが、まだ彼を支配していた。拳銃を握る手が震える。


 レイは両手で握っていたリモコンから右手を離して、左手だけで持ち、空いた右手でナイフを持った男の腕を掴んだ。腕を掴まれた男は、更にナイフをレイの首に押し付けた。


 左手だけでリモコンを操作して、レイは男の顔を狙ってドローンをぶつけた。男はナイフを持った右手をレイの首から離してドローンを叩き落とそうとした。


 その瞬間、レイはリモコンを手放してナイフを握った男の腕を両手で高く持ち上げた。


 パンッ!


 乾いた音が鳴り響き、男の手からナイフが飛んだ。福田が撃ったのだ。彼の撃った弾は、見事に男の手に命中してナイフを弾き飛ばした。


 男を確保して手錠をかけ、福田は男の服のポケットにあった鍵で休憩所の扉を開けて、閉じ込められている少女を救い出した。


「桃華ちゃんだね、もう大丈夫だよ!」

 少女は福田にすがりついて泣きじゃくった。福田は同い年の娘を想って一緒に泣いた。


 ★☆


 廃倉庫に忍び込んだレイと光輝は、警察からコッテリ絞られた。


「女の子を無事に発見出来たんだから、表彰されても良いんじゃないかしら」

 詩織は、レイが危ない目に遭った事を聞かされていないので、呑気にそんな事を言っていた。


 アランは捕物の様子を福田から詳しく聞いていたが、詩織には一部しか話さなかった。一歩間違えれば命の危険があった事を知ったら、彼女がどれだけ心配するか分からない。詩織は天然なようで実はすごく繊細だという事をアランはよく知っている。


 幸い少女は、イタズラもされてなく無事に両親の元に帰された。犯人は普通のサラリーマンで妻もいた。


 犯人のPCやスマホから大量の児童ポルノ写真や動画が発見された。彼は小児性愛者であった。川で遺体として見つかった少女からも、男の体液が検出されて、殺人・死体遺棄容疑でも逮捕された。


『福田は、ロッカーの中に入れていた辞職願を破り捨てました』

 徳永はそう言い置いて成仏した。


「助かった女の子が福田さんの娘さんと同い年だった事も、彼が警察を辞める事をとどまった一因のようだね」

 アランは、詩織の手の甲にキスをした。

「詩織が言ってたみたいに、彼は警察としてのやりがいを再確認したようだよ」


「拳銃でナイフを撃ち落とした事も自信を取り戻す要因だったらしいよ」


 レイがその時の事を細かく説明した。勿論、自分が犯人の腕を高く持ち上げていた事は捨象した。福田の腕が悪ければ、レイに当たった可能性もあった距離だ。

「凄い腕だと思ったよ!」


「怖い事件だったけど、今回もまとめてハッピーエンドだったわね」

メイは、買ってもらった漫画から目を上げずに呟いた。



刑事とドローン 了


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