第16話 詐欺師と姉②
警察は、すぐに刑事を
一方、隣の澄江ばあちゃんの家では、長い梯子を積んだトラックが横付けされて、何やら始まっていた。
「屋根に登って点検するのね」
刑事の相手をアランとレイに任せて、詩織とメイは庭先の花の手入れをするふりをしながら、澄江ばあちゃんの家の屋根に長い梯子を掛けている業者の様子を見ている。春樹が先頭に立って梯子を昇って行った。
夏菜子の話では、詐欺グループは、まず点検はタダで悪いとこが何もなければお金は一切かかりませんと言って安心させる。そして下から見えない部分をわざわざ壊して写真を撮る。
その後、口の上手い営業担当者がやって来て、自分達で壊した箇所の写真を被害者に見せ、修理しないと隣近所に迷惑が掛かる。修理代に比べてそっちの損害賠償の方が余程高くつくなどと半ば脅して、修理の契約を結ばせるという手口を取るらしい。
おばあちゃんを詐欺から救う為だけなら、今来ている奴らを追い返せば済むが、詐欺グループを捕まえる為には決定的な証拠が必要だ。
それでレイはあらかじめ澄江ばあちゃんの屋根を撮影しておいたのだ。
今、奴らが屋根瓦を破壊しているだろう映像をドローンで録画するという案も出たが、ドローンの音が意外に大きいので、気づかれてしまうだろうという事で却下された。
もう一つは、彼らが自分達で壊した箇所の写真を見せて、ここが壊れていたと言ったあとだ。
最善策は犯人達を逃亡させないように家から出たところで確保しておくことだ。
屋根から、春樹たちが降りて来た。瓦を壊し終わったのだろう。止めていたトラックの向こうにあった車から一人のスーツ姿の男が降りて来て、春樹と一緒に澄江ばあちゃんの家の中に入って行った。
「今のが営業担当ね」
「点検が終わって、業者が家に入って行ったわ」
偵察を終えて晴れ晴れとした顔で詩織が入って来た。
「ご協力感謝いたします」
刑事が立ち上がって、お辞儀をした。二人ともヤクザと言われても納得してしまいそうな
一人は細身の長身で、スーツを着こなしているが、もう一人は小太りでポロシャツにジーンズ姿だ。
厳つい刑事が見張ると犯人に気取られる可能性があると詩織が主張して、メイと詩織が代わりに見張りに立った訳だ。
犯人達が出て来たら、メイが澄江ばあちゃんに話しかける事になっている。
「それでは宜しくお願いしますね」
澄江ばあちゃんの声だ。
「お任せください。綺麗に仕上げますので、もう何一つ心配は要りませんよ」
営業担当の男の嘘くさい声も聞こえて来た。
「澄江ばあちゃん!」
メイは、殊更大きな声で澄江ばあちゃんの名前を呼んだ。合図である。
「お家、何処か壊れたの?」
わざと子どもっぽい言い方でメイが聞いた。
「あら、メイちゃん。いえね、屋根瓦が割れているらしいのよ」
澄江ばあちゃんはすっかり騙されていた。
「瓦が?まぁ、そうなの!」
メイは、わざとらしく驚いたふりをした。
「では、我々はこれで」
「ちょっといいですか」
詐欺師達はそそくさと立ち去ろうとしたが、友坂家から出て来た二人の刑事が足止めした。
「何でしょうか」
ふてぶてしい顔をして、営業担当が聞いた。春樹は下を向いている。
「奥さん、屋根瓦が割れているんですって?」
澄江ばあちゃんに一人の刑事が聞いた。
「はい、そうなんですよ。もう古い家ですからね」
おばあちゃんは不思議そうに刑事を見つめている。
「壊れた箇所の写真があるのですか」
今度は営業担当に刑事が聞いた。
「はい、もちろんですよ」
そう言いながら、手に持っていたタブレット端末を操作して、画像を見せた。いくつかの箇所で瓦が割れている。
「これは、いつ撮った写真ですか?」
「ついさっきですよ、ほんの三十分前です。ねぇ、奥さん」
営業担当は、澄江ばあちゃんに助けを求めた。
「おかしな話ですなぁ。そのほんの三十分前のほんの十分前に、こちらのお宅のお坊ちゃんがドローンで撮影した画像がここにあるんですがね、瓦はどこも綺麗なもんですよ」
「‥‥‥」
「署に来てもらいましょうか」
☆★
「トクリュウを一つ挙げられて、レイは表彰されるんじゃないか」
いつもの夕食後の家族団欒の時間、アランは誇らしげにレイを褒めた。
トクリュウとは、匿名・流動型犯罪グループの事で、SNSや求人サイト等を利用して犯罪実行犯を募り、匿名性の高い通信手段を用いるなどして結びついたメンバー同士が役割を細分化させ、その都度メンバーを入れ替えながら、強盗事件や特殊詐欺、SNS型投資・ロマンス詐欺など様々な犯罪を敢行するものだ。
最近では、警察官を騙る特殊詐欺が横行していて、高齢者だけでなく、若い人までが引っかかる事案が起きている。
レイ達の活躍で、春樹を含む詐欺グループが逮捕されて、その供述からグループのトップクラスの男が数人摘発されたというニュースが報道された。
「それはないだろ。住宅街でドローン飛ばしたのは違法だけど、今回だけ特別に許してもらったんだから」
レイは少し不満げだ。
「ま、澄江ばあちゃんも救えたし、良かったよ」
「そうだね、詩織もいい仕事したしね」
アランが詩織の腰に手を回して引き寄せる。
「澄江ばあちゃんは、屋根の修理に三百万もふっかけられたんだってね」
メイの声は尖っている。腹が立って仕方ないというところか。
「自分たちで壊しておいてさ」
壊された箇所は、近くの工務店が数万円で修理してくれた。犯人グループが補償金を払ってくれるかは分からないという事だった。
「レイちゃん達のおかげで助かったわ。修理代は勉強代と思ったら安いものよ」
澄江ばあちゃんは、騙された事を自分の無知だと反省していた。
「振り込め詐欺とかも心配よね」
詩織は右手を頬に当てて首を傾げた。憂いのある表情も美人妻にはよく似合っている。
「澄江ばあちゃんにはそれも話してる。なんか困ったら俺に相談するように言ってる」
アランと詩織は顔を見合わせて笑った。レイの大人びた物言いに成長を感じているようだ。
「今回の事件、春樹さんは、お姉さんの為に闇バイトに手を出して、夏菜子さんは弟が心配で成仏できなかった。きょうだい愛よね〜」
詩織は双子の姉と弟を交互に見ながら微笑んだ。目に優しさが浮かんでいる。
「あっ、コイツにも幽霊が憑いてる!メイ、父ちゃん!」
詩織の眼差しに少し照れて、テレビに視線を移したレイが、そのトップクラスの河合利彦という男が連行される画像を指して叫んだ。
「凄い顔してる。相当恨んでるぞ」
メイは意識を集中して、霊の声に耳を傾けた。
「殺された。埋められた。そう聞こえるわ」
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