番外編「繋がる指、交わる身体」

 二人が過ごした夜は、明け方の冷たい空気の中、静かに終わった。

 しかしその後も、欲望は絶え間なく、蠢く。


 崇の部屋に残されたひとしずくの余韻。

 湊はベッドに横たわったまま、目を閉じ、手のひらを天井に向けて伸ばしている。その指先に残る、温かい余韻。


 崇はそっとベッドに近づき、湊の手を握り締めた。


「……寝ないのか?」


「……寝られるわけないだろ」


 湊はそう言って、少し意地悪に笑うと、崇の手を強く握り返した。


「今日は、ちゃんと……欲しかったんだ、俺」


「……何を」


「何もかも。……ただ、ただ、壊れたかった。俺、ずっと……耐えてたから」


 湊の言葉には真実が滲んでいる。

 崇はその目をじっと見つめ、胸の奥で何かが熱くなるのを感じた。


「――お前は、ずっと抑えてたんだな」


 湊は口を閉じ、崇の顔をじっと見つめた。


「でも、課長に壊されたから、もう戻れない」


 その言葉が、崇の心を震わせた。言葉ではなく、体の中にある熱が、湊の欲望と重なり、重ねられていることを感じた。


 もう、戻れない。

 その覚悟が、二人の間に交わった欲望をさらに加速させる。


 崇は湊を自分の胸に引き寄せ、唇を重ねた。

 最初は柔らかく触れただけだったが、すぐに舌が絡み合い、深いキスへと変わる。湊の手が、崇のシャツの裾を掴み、引き上げる。肌のぬくもりを感じると、崇は湊をベッドに押し倒した。


「お前、まだ……欲しいんだろ」


 湊は答えない。ただ目を閉じて、軽く唇を震わせる。その顔に浮かぶ欲望の表情が、崇の中で何かを爆発させた。


 湊が声を漏らすと同時に、崇の指が彼の胸を撫で、上着を引き裂いた。

 湊の肌に触れるたび、崇の指先は火照り、さらに深く入れていく。


「ん……あっ……っ」


 湊の耳元に低く囁くように言った。


「お前、もう一度、俺に抱かれたいのか」


 湊は喘ぐように息を飲み、頷いた。その反応に、崇の指がさらに深く入っていく。


「声、抑えろよ」


 崇の言葉に従うように湊は口を閉じ、ただ体で応じてくる。

 身体が弓なりに反り返り、崇の指が奥深くへと届くたびに、湊の表情が歪む。


「……んっ、はあっ……や、やばい、また……っ」


 その声に崇はさらに激しく動き始めた。

 湊の胸を掴み、押し付けるようにして力強く動くたび、湊の体はふるえる。


「もう出してくれ……」


 湊は苦しそうに言った。

 崇はすぐに、答えた。答える間もなく、再び突き入れる。


「いいのか? こんな風に、誰にも見せられないことして」


「……課長、俺が欲しいんだよね?」


「……ああ」


 その言葉を確認した途端、湊の体は波のように揺れ、崇も一気に彼を突き上げる。


 濡れた音が響き、湊が声をこらえながら震える。

 その反応を感じながら、崇はさらに激しく腰を動かし、湊の奥を貫く。


「……ふっ、あぁっ……っ!」


 湊が崩れそうになる瞬間、崇は彼の首元に顔を埋め、さらに深く入れていく。

 二人の息が交わり、身体が一つに溶けていく。


 湊の手が、崇の背中を掴み、強く引き寄せた。

 二人の体がどんどんと絡まり、声を漏らすこともできずにひたすらに求め合った。


 やがて、二人は限界に達し、湊が一瞬だけ目を見開いた後、崇も一気にその中で果てる。


 熱が溢れ、二人は重なり合ったまま、深い呼吸を繰り返す。

 その後も、崇はしばらく湊の体を抱きしめながら、互いのぬくもりを感じ続けた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る