第6話《ダンジョンサイド》




 ダンジョンに取り込んだ村に第一行商人がやって来てしばらく。

 周囲の土地を侵食して領域を拡げていた街づくり好きな迷宮核は、土地の拡大を一段落させて街道整備に注力していた。


 行商人がやって来た街道をダンジョンの領域に取り込んでは、拡げて均して石畳を敷いて街灯を立てる。一定間隔で休憩できる広場を作り、迷宮の泉を設置して給水スポットにした。

 飼い葉にできそうな牧草ゾーンも併設しておいた。



「これで大勢の人が来るようになってもスムーズに通れるはず」


 もうそろそろ街道の先にある街に繋がるだろうかというところで、ダンジョンのオブジェクトにダメージが入った事を報せる信号が届いた。


「んん? 水撒き用の柱が攻撃されたのか?」


 その地点に意識を向けて付近の様子を窺う。

 まだ領域化していない手付かずの細い街道と、拡げて均した整備途中の街道との境界付近で、地面から生やした石の柱に打ち掛かっている者達が居た。


 装いからして冒険者のようだ。十数人ほどの冒険者達は、手にハンマーやメイスのような鈍器を持って水撒き用の柱を叩きつけている。


 攻撃しているグループと、その様子を見ながら後方で待機しているグループ。そして彼等を指揮しているっぽい、他の冒険者より装いも豪華な強者感のある髭の男性。

 彼の隣には以前、森のオブジェ置き場までやって来た事のある神官と二人の冒険者も居た。


 どうやら街道のダンジョン領域化を阻止しようとしているようだ。


『今の魔素量ならば、上位種の魔物を呼び出す事も可能』


 状況を認識した魔核が即座に冒険者達の撃滅案を出してくるが、街づくり好きな迷宮核は当然のごとくそれらを却下。

 別に対峙する必要はないのだと、事前に考えておいた手を打つ。


「こういうイベントも当然あるだろうって想定してたからな」


 水撒き用の柱はダンジョン内のオブジェなので、多少壊されても自己修復する。見た目は細い石の柱だが、その丈夫さは鉄の塊かと見紛うほどだ。

 ここまで領域化した道の先端に一本だけ生やしていた水撒き柱を二本に増やし、彼等を迂回するように左右に放水。

 濡れた地面を領域化すると、街道と同じ高さに盛り上げ、均し、拡げて道を形成していく。


 増えた柱と変異する地面に、驚く冒険者達は慌てて柱を壊そうとするが、放水ノズルが損傷する前に十分な水撒きを済ませられる。新たに伸びた街道の先に柱を生やし直してまた放水。

 冒険者達は後方で待機していたグループも加わり、全員で柱の破壊に乗り出した――が、止められない。


「この部分は広場にしよう」


 街づくり好きな迷宮核は、冒険者グループを左右に迂回した事で出来た真ん中の空き地の部分にも放水してダンジョンに取り込むと、中心に噴水オブジェ付き迷宮の泉を設置。

 噴水付き泉の周囲にはベンチを並べて憩いの場にした。


 そして、冒険者達が街に向かって伸びていく道の先端に生える石柱に気を取られている間に、噴水広場一帯を石畳で固めて、ここまで伸ばして来た整備済みの街道と接続した。


「広場の外周とベンチの傍にも街灯を立てて、と。これで良し」


 街道と繋がる『良い感じの広場』が出来上がった。


 まだダンジョンの領域に入っていない細く荒れた街道の先には、この世界の街らしき影が見える。

 街を出て少し進んだ先にあるこの広場は、街づくり好きな迷宮核が運営するダンジョンの街に向かう為の、出発地点として使える筈だ。


 この広場を中心に馬車用の駐車スペースや露店用スペースを作れば、ちょっとした街道沿いの中継街になるのではと構想を膨らませてワクワクしている街づくり好きな迷宮核。


 その時、伸長を続けていた水撒き領域化の範囲拡大がピタリと止まった。まるで堰き止められたかのように、放出した水は柱の元へと落ち続けている。


 街づくり好きな迷宮核がそちらの様子を見やると、水撒き柱の正面が大きな壁に遮られていた。


「むむ? これは……」


 どうやら魔法で出した岩の壁らしく、迷宮産の水が侵食し難い。

 魔法による炎や氷、岩などの物体は、ダンジョンの中でも即座には分解されず暫くは残る。魔法の効果が切れて魔素に戻れば、相応に大量の魔素を吸収できるようだ。


 現在、領域化した街道の先端を囲むように、魔法の岩壁が行く手を阻んでいる。


「これ以上は街に近付けさせたくないみたいだな。まあ丁度いいや。武器の実験ができる」


 放水の角度を変えれば、壁の向こうまで水を撒くのは容易だ。しかし、ここまで強く拒まれているなら、これ以上の領域拡大による接近は止めておいた方が良いと判断した。


 先ほどの迂回と広場づくりで大勢の冒険者達がダンジョンの領域内に踏み入れており、大量の魔素を吸収できている。


 街づくり好きな迷宮核は、それらの魔素を使って新しく攻撃用の放水柱を設計した。

 水圧操作に使っているトラップ用のギミックをより強力なものに交換して、柱の厚みも増し増しに。内部に生成した水をこれでもかと圧縮する。


 今まで使っていたのは扉の開閉や床の一部を動かす程度の小型トラップ用だが、新しいギミックは一部屋分の壁を丸ごと動かしたり、重い釣り天井を持ち上げたりする大型トラップ用だ。

 森の中に設けたオブジェクトサンプル置き場で実験を繰り返し、威力や使い心地を確かめる。


「よし、これなら使えるか」


 魔核が興味深そうな意識を向けて来るなか、さっそく完成品を街道の先端に設置すると、魔法の岩壁に向けて使ってみた。


 大型放水柱の中でぎゅうぎゅうに加圧された水を超高圧で噴射。いわゆるウォータージェットで魔法の岩壁の切断を試みる。


「いいね」

『すばらしい……』


 結果は満足のいくものだった。魔法で出した岩壁は時間経過と共に魔素に分解されていくが、迷宮産の超高圧水流をぶつけられた事で瞬く間に耐久値が削られたらしく、さっくりと切断。

 冒険者達が動揺している様子が分かる。


 街づくり好きな迷宮核は、領域化済みである街道の先端に大きめのアーチを作ってダンジョンの領域の入り口を演出すると、ひとまず街道整備をここまでに止めた。


「この街道が安全だって分かれば、人の往来も増えるはず」


 それで十分に魔素が貯まれば、また別方向に道を伸ばして他の街に繋げば良い。ここにきて、魔核もこの迷宮核のやりたい事を理解したらしく、役立ちそうな知識を投げて来た。


「……ほうほう、生命を丸ごと吸収すると、その生命体の記憶も参照できる場合があるのか」



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