第3話「魔導商会〈セラフィム〉との契約」
翌朝、都市アゼレアの朝は眩しいほどの光に満ちていた。魔導都市ならではの浮遊灯や魔力街灯はすでに消え、代わりに巨大な結晶塔から発せられる魔力光が街の中心部を照らしていた。
ハルトたちは、朝食を早めに済ませ、セラフィム商会の本部へと向かった。
「……豪華だな」
目の前に広がるのは、まるで王宮のような白亜のビルディング。魔法で浮かぶ階層、空中庭園、警備用のゴーレムが行き交っている。エントランスには金と銀で装飾された大きなアーチがあり、その上にはセラフィムの紋章が輝いていた。
「じゃ、いきましょっか」
シエルが軽やかに飛びながら、先頭に立った。
受付の女性に通され、彼らは会議室へと案内された。大きな長机の前に座っていたのは、セラフィム商会の代表代理——若き商才として名高い青年、ルディ・ヴェルフェルだった。
「はじめまして、カミシロ様。ようこそセラフィムへ」
ルディは丁寧に微笑んだ。金髪で整った顔立ち、冷静かつ鋭い瞳。
「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます」
緊張を隠さずに返したハルト。彼の肩に乗るシエルは、小声で「なんか腹に一物ありそうな顔」とつぶやいたが、ハルトは気にしないふりをした。
「本日は、あなたの牧場製品を都市市場に展開する件についてご相談させていただきます」
ルディの言葉に、部屋の端にいた女性秘書が書類を差し出す。中には、契約の条件、利益分配、物流手配、品質保証まで、事細かに記されていた。
「ここまで準備されているとは……」
「ええ、私たちは“価値あるもの”を見つけるために常に目を光らせています。あなたの牧場、そして動物たちの育成手法とその品質は、我々が探していたものそのものです」
「……嬉しいです。でも、ひとつ聞かせてください」
「はい?」
「どうして、まだ無名の僕の牧場に、そこまで注目してくれたんですか?」
ルディの表情が一瞬、硬くなった。
だがすぐに笑顔に戻り、言った。
「未来の可能性——ですかね。あなたは、動物との調和を優先し、効率や収益を後回しにしている。そこが我々には新鮮だった」
(……本当か?)
心の奥に引っかかるものがあったが、契約条件に不審な点はなかった。
「契約、進めていいと思う?」
肩のシエルが耳元で囁く。
「……とりあえず、やってみるよ。僕は僕のやり方を守る」
「よろしい。では契約を交わしましょう」
ルディが手を差し出す。ハルトも右手を差し出し、しっかりと握手を交わした。
その瞬間、机の上に置かれていた魔導契約書が淡く光り、契約は成立した。
「これで、君の牧場はこの都市の市場の一部になる」
ルディの言葉に、少しだけプレッシャーを感じながらも、ハルトは頷いた。
セラフィム商会とつながったことが、吉と出るか凶と出るか。
それはまだ、この先の物語が決めることだった。
その日の夜、宿の屋上で、ハルトはひとり空を見上げていた。
「……夢に、少し近づけたかな」
「近づいたよ」
シエルが小さな声でそう言って、ハルトの髪にそっと触れた。
「でも、まだまだ波乱は続くと思う。覚悟、しておきなよ?」
「もちろんだよ。もう、あの頃の無力な自分には戻りたくない」
夜の風が、優しく吹き抜けた。
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