第4話「市場と魔道具と、精霊の気まぐれ」

村での小さな診療活動を続けて数日、ハルトはあることに気づいた。どの家畜も、根本的な治療よりも「予防」や「環境の見直し」が必要な場合が多い。だが、それには時間も知識も必要だった。


「うーん……道具があればもっと早く楽にできるのに」


そんなある日、ロシュが市場で買い出しの帰り道に、奇妙な品を見つけてきた。


「なあハルト。これ、魔道具屋が処分セールしてたんだけど、使えそうじゃない?」


それは、丸いガラスの瓶のような形をしており、触れると中が青く光る。


「“浄化の壺”……らしいよ。井戸水とか小川の水を入れると、不純物を吸い取って清浄にしてくれるとか」


「それだ!」


ハルトは思わず身を乗り出した。水問題で困っている農家や家畜にとって、それは救世主になる可能性があった。さっそく購入し、翌朝にはティナの農場で実験を行った。


「……すごい。臭いがしないわ……本当にきれいになってる」


ティナの目が丸くなる。それだけでなく、鶏たちも数時間後には餌をついばみ始め、元気を取り戻していった。


「これが……魔道具の力」


ハルトは少し感動していた。前世ではどれだけ頑張っても救えなかった命が、ここでは魔法の力で守れる可能性がある。それは希望だった。


帰り道、シエルが珍しく大人しくハルトの肩に乗っていた。


「ねえ、あの壺……ちょっと、私の魔力も感じたんだけど」


「え?」


「もしかしたら、私が“変身”できるのも、こういう魔道具の核と同じ力なんじゃないかなって。だからね、実験してみようと思うの」


「また何か企んでる?」


「ふふふ、あたしを誰だと思ってるのよ」


その夜、シエルはぽんと宙に跳ねたかと思うと、光に包まれて小さなウサギの姿になっていた。


「じゃじゃーん!」


「……本当に、ウサギだ」


「ちょっと!もっと感動してよ!これ、超レアな変身なんだからね」


「すごい……けど、元に戻れるのか?」


「うぐっ……た、たぶん」


シエルは変身解除の言葉を忘れてしばらくウサギのまま過ごす羽目になったが、数時間後には元の妖精姿に戻ることができた。


「ふぅ……やっぱりまだ練習が必要だな」


「でも、これから役に立ちそうだね」


「うん。もっと魔道具のこと、魔法のこと、あたしたちで解明していこう。あんたの牧場、きっとこの世界で一番不思議で優しい場所になるよ」


夜空に瞬く星の下、ハルトとシエルはまた一歩、新しい希望に向けて歩き出していた。

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