お空の洗濯

八坂卯野 (旧鈴ノ木 鈴ノ子)

洗濯雲はかく語り、空と海とが頷いた。


 真綿のような雲たちが広い広い一面を覆い尽くして広がった。

 ところどころの切れ間より、朝焼け箒が降りてきて地上のすべてを掃いてゆく。


 舞い散る穢れで青空を、汚すまいぞと雲たちが、フィルターのように穢れをば、吸い取り宿して色変わる。

 やがてどんよりした雲に、青空シャワーをかけたなら、雲のフィルター洗われて、雨を地上に落としてく。

 濯ぎ洗いの雨たちが、木々の緑や、花々を優しく洗ってゆくのです。


 夜半に至る頃合いに、月の光で清められ、フィルター汚れが落ちたなら、地上の汚れも落としゆく。雨は地上で手を繋ぎ、一列縦隊なりながら、やがては隊列組んでゆき、川の流れとなるでしょう。


 川は海はへと流れゆき、一つ二つと雨粒が、水浴びしては身を清め、風のタオルで拭いたなら、やがて空へと帰りゆく。


 海は穢れを纏めては、黒い泥炭トントンと作って作ってゆくのです。

 溜まりに溜まった泥炭を深い深い海底の地球の暖炉へ焚べたなら、純白の灰になって、深い海へと落ちてゆく。

 純白の灰が積もるたび、地球はゆっくりくるくると、回転しながら喜ぶの。


 洗濯終えた雲たちは、青空によって集められ、絞られ終わると干されてく。

 お日様の光に照らされて、あったか空気に乾かされ、もこもこもこと膨らんだ。


 梅雨と冬は季節替え、洗濯物が多いから、雨やどんより長くなる。春と夏は衣替え、すべての洗濯やり終えて、地上に温かな日差しを注ぎ、熱い眼差しで見守るの。

 やがて秋が来たのなら、満ちた陽気の実りを見つめ、朝焼け夕焼けに頬を染めて、世界のすべてのものたちに、ひとときの幸せもたらすの。


 崩さぬように、崩れぬように、すべての営み壊さぬように、手と手を足を取り合って、長く続けてゆきましょう。

 

 お洗濯は繊細で洗い物は絹の雲、一度汚してしまったら、紡ぐことなどできぬ雲、進んでしまってばかりいて、振り返ること忘れたら、いつか縫い目の糸たちがぷつりぷつりと切れてゆき、裂けた布地が足元へ、そして奈落の底へと落ちてゆく。


 深い深い奈落の底は、二度と出られぬ真っ暗闇、広い宇宙の怖い穴、ブラックホールのようなとこ、あっという間に呑まれる前に、見つめ直してみましょうよ。

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