イケメン女子は、本当は可愛くなりたいのに

雲雀湯@てんびん2026年アニメ化決定

第1話 結崎瑞希は王子様系イケメン女子


 遠目に見える山々や街路樹が新緑に色付き、春の終わりを謳う。

 新入生からの初々しさも取れ、新しいクラスにも馴染み、人間関係も固まってくる五月上旬。

 文武両道を掲げる大軌学園。

 校門前に一人の女子生徒が登校してくるなり、周囲はにわかに騒めき始めた。


「ほら、あの子が例の一年の!」

「わ、めっちゃかっこよくね!? 王子様って噂になるの、わかる~」

「はぁ、男の目から見ても確かにイケメンだわ」


 皆の視線を集めているのは、色白で線の細さを感じさせるものの、くっきりとした目鼻立ちで中世的なイメージを抱かせる女の子。今年入学してきた、結崎ゆうざき瑞希みずき

 艶のある長い髪を無造作に束ね、涼やかな目、女子にしてはスラリと背が高く、ピンと伸びた背筋で歩く姿は品の良さが滲み出ているようで、付いたあだ名は王子様。

 制服も敢えてスカートでなくスラックスを好んで着用していることもあり、そのイメージに拍車をかけるというもの。皆の噂になるのも当然だろう。

 しかし瑞希は周囲から好意的とはいえ、不躾ともいえる好奇や興味の視線を受けるも、どこ吹く風と受け流す。

 それどころか無断にスマホを向けられ写真を撮られるも、シャッター音に気付けば目線を向けて微笑めば、黄色い声を上げさせる。

 するとその時、瑞希の目の前でお喋りに夢中になってる女子生徒の一人が足を滑らした。


「それで――きゃっ!」

「っと、あぶないっ」


 瑞希は咄嗟に彼女の手を掴み、事なきを得る。

 そして瑞希が女子生徒の無事を確認し、よかったとばかりにニコリと微笑めば、たちまち彼女の顔が真っ赤に茹で上がっていく。


「え、あ……すみません。私、ボーっとしてて……」

「いや、キミに怪我がなくてよかったよ」


 瑞希は片手を上げ、女の子を助けるのは当たり前といった風にこの場を去れば、たちまち周囲は盛り上がるというもの。

 助けたばかりの女子生徒も、早速それまで一緒にお喋りしていた友達と弾んだ声を上げる。


「やばっ、今のなに!? 王子様、マジ王子様なんですけど!」

「さりげないというか、様になってるっていうか!」

「いいなー、私もあんな風に助けられたい!」


 瑞希はそう言ってはしゃぐ彼女たちの声を背中に浴びせられるも、自分がしたことはさも当然いった風に歩いていく。

 その姿はまさに噂通り、王子様そのもの。

 周りの男子たちも、瑞希のイケメンぶりにこれは叶わないと苦笑い。

 それが結崎瑞希という、少女だった。



 校舎の三階にある一年二組の教室は、朝の喧騒に包まれていた。

 友人同士で集まり他愛のない会話に花を咲かせていたり、スマホ片手に忙しなく指を動かす人や、自分の席で慌てて今日の課題をしたり、あるいは机に突っ伏して寝ていたりと、思い思いに過ごしている。

 そんな中、平端ひらはた虎哲こてつは教室後方の空きスペースで脚を大きく前後に開いて腰を落としたり、壁に手をついて脚を伸ばしたまま左右に大きく振ったりしていた。

 傍から見れば、突飛なことをしているように見えるだろう。しかし、特に虎哲の行動を気にしている人はいない。

 そして窓辺に居たとある女子生徒が、驚き声を上げた。


「あ、結崎さんが告白されてる!」


 彼女の言葉を聞き逃せないと、興味津々の女子生徒たちが窓辺に集まってくる。そこからは、瑞希が頬を染めたある女子生徒に詰め寄られる姿が見えた。

 彼女たちは声を弾ませ囁き合う。


「こないだも隣のクラスの子に迫られてなかったっけ?」

「結崎さん、ほんとモテるよね~」

「見た目もだけど、やることもイケメン……あ、あの子、頭ぽんぽんされてる!」

「ファンサ精神旺盛だからね、あれは沼ったなー」


 彼女たちの声を聞きながら、男子生徒たちも「またかよ」「羨ましい」「仕方ない」といった愚痴を零している。教室内がにわかに瑞希の話題が広がっていく。

 しかし虎哲はそんなことを知ったことかと、身体の動きを確かめるように動かしている。

 すると虎哲が何をしているのか気になったのか、不思議そうな顔をした一人の女子生徒が近寄ってきた。

 小柄でくりくりとした大きな瞳、英国人の祖父譲りの透き通るような白い肌、掘りが深い整った目鼻立ちに、銀糸のように輝くプラチナブロンドは編み込みハーフアップにされ、緩く波打っている。どこか小動物的な印象を抱かせる、まるでお姫様のような女の子。彼女は気安い様子で虎哲に話しかけてくる。


「こーちゃん、何してるの?」

朱莉あかりか。ストレッチだよ、一限目体育だし」

「随分気が早いね~」

「そりゃ、今日は短距離のタイム測定と中距離があるからな、勝つためには万全を期しとかないと!」

「あはは、いつもの(、、、、)やつか~」

「おうよ!」


 そう言ってストレッチを続ける虎哲に、やれやれと苦笑する朱莉。

 するとその時、教室のドアがガラリと開くと共に、凛とした声が響き渡った。


「おはよう」


 瑞希が教室に顔を見せると共に、クラスメイトたちも「おは~」「よっす」といった声と共に片手を上げ、挨拶を交わす。この場の空気が、瑞希のおかげで途端に華やいでいく。

 そして瑞希の姿に気付いた朱莉は、パァッと目を輝かせて彼女の下へと駆け寄った。


「みっちゃん、おはよー! また女の子に告白されてたの?」

「おはよう、朱莉。違うよ、連絡先を聞かれてただけ」

「あはは、逆ナンの方だったか~。それより聞いて聞いて! 昨日お父さんがすごく固いプリン買ってきたんだけど、それがもぅすっごく固くてさ、フォークで刺さっちゃうくらいで!」

「朱莉、プリンの報告もいいけど髪に糸くず付いてるよ。それに、リボンも曲がってる」

「ふぇっ!?」


 そう言って瑞希はさりげなく朱莉の髪に付いた糸くずを払い、リボンを整える。


「はい、これでよし。今日も可愛いよ、朱莉」

「ありがと。みっちゃんも相変わらず、朝からイケメンさんだね~」


 はにかみながらお礼を言う朱莉に、爽やかな笑みを返す瑞希。

 傍から見れば、まるでお姫様と戯れる王子様。二人が並ぶさまは絵画じみており、クラスメイトたちはそんな二人を微笑ましく眺めている。

 しかしそこへ、虎哲が空気を読まずに割って入ってきた。


「瑞希、一限目の体育、勝負しようぜ!」


※※※※※※※※


次回、本日19時更新予定

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