異世界ほのぼの田舎暮らし ~転生したら村でのんびり暮らしてました~

ゆずの しずく

第1話 野菜とパンと転生魔法

朝、目が覚めると――

俺は見知らぬ干し草の上に寝ていた。


天井は木でできていて、隙間から柔らかい光が差し込んでいる。

外からは鳥の声と、小川のせせらぎが聞こえる。


「……え? ここ、どこだ?」


身体を起こすと、足元には布でできた靴、そばには木製のバケツと湯気の立つスープ。


戸惑っていると、木の扉が開いた。


「お、起きたか。ようこそ、リューンの村へ」


笑顔の老人が、ひょこっと顔を出した。

白いひげ、優しい目、杖を持っている。


「あなたは……?」


「わしは村の長だよ。おぬし、森の外れに倒れておってな。魔物にも襲われず、無事だったのは奇跡じゃ」


頭の中に、ある“記憶”が浮かぶ。


──トラックのライト、急ブレーキ、飛んだ衝撃。

そして、光に包まれた瞬間。


「まさか、これって……異世界転生?」


「うむ。おぬし、元の世界で死にかけていたようじゃ。こちらの神様が拾ってくださったのじゃろう」


……本当に、異世界に来たらしい。


だが、なぜか心は穏やかだった。


***


この村――リューン村は、人口二十人ほどの小さな村。

だけど、四季が豊かで、森と川と畑に囲まれている。


俺は「アイ」という名前を与えられ、しばらく村で世話になることになった。


畑を耕す村の娘、羊を飼ってる少年、パンを焼くおばあさん。

みんな優しくて、のんびりした日々が流れていく。


驚いたのは、“生活魔法”が誰でも少し使えること。


・「火灯(ひとも)し」:手のひらで火を起こせる

・「清水(きよみず)」:水を出せる

・「芽吹(めぶき)」:種から芽を出せる


高度な魔法は都市の魔導師だけらしいが、こういう生活魔法が村では重宝されていた。


俺も、見よう見まねで練習し、三日目には小さな火を灯せるようになった。


「お、やるのう。おぬし、もしかして魔力の素質が高いのかもしれん」


村長が、ひげを撫でながら目を細めた。


「素質?」


「ああ。こっちの世界の“異邦人”は、時々とんでもない才能を持っておる。だがまあ、焦るでない。村でのんびり過ごすのが一番じゃ」


***


そんなある日。

パン屋のおばあさんに頼まれて、森の奥にある“光の苔”を取りに行くことになった。


「ただし、夜は絶対に入っちゃいけませんよ。森には“眠らぬ魔物”が出るって言われてるからねぇ」


昼間なら大丈夫、と言われて気楽に出かけた俺。

小さなバスケットを持って、森へと入っていく。


鳥の声、木漏れ日、ふかふかの落ち葉。


「……なんかジブリっぽいなぁ。いいとこ来たなぁ、俺」


なんて、調子に乗っていたそのとき――

茂みの奥で「くぅん……」と小さな声が聞こえた。


近づいてみると、子犬のような魔物が足をケガしてうずくまっていた。


「だ、大丈夫か?」


魔物――見た目は白いモフモフの生き物で、頭に小さな角が生えている。


「ガル……」と小さく鳴く。


明らかに敵意はなく、むしろ怯えている様子。


俺は、村の教会で習った「癒(いや)し」の魔法を思い出しながら、そっと手をかざした。


「癒し……癒し……出ろ、なんか出ろ……」


すると、手のひらがぼうっと光った。


「おっ!? えっ? なんか出たぞ!? 光ってる!」


魔物の足に触れると、光がじわっと染み込み、傷口がふさがっていく。


「……癒せた?」


魔物は目をぱちくりさせた後、ぴょんと俺に飛びついてきた。


「わっ、こら、くすぐったい! 毛がふわふわすぎる!」


そのまま、森の奥で光の苔も見つけ、帰り道はモフモフと一緒にのんびり。


こうして俺の異世界村暮らしに、“相棒”ができた。


***


村に帰ると、みんなが驚いた顔で迎えてくれた。


「お、おぬし、その子はまさか……“白月の守り獣”じゃないか?」


「え、ただのモフモフ魔物じゃ……」


「伝承では、その獣に懐かれた者は、村を守る存在になると……!」


ええっ、ちょっと待って。

のんびりスローライフじゃなかったの!?


俺の村暮らし、どうやらちょっとだけ波乱の予感……。

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