特技:○○できます。

怪物イケダ

第1話 特技:目を裏返せます

 面接官・佐伯は朝から倦怠感と戦っていた。連日の面接で、同じような志望動機とテンプレ回答の嵐。人事部の宿命だとはいえ、心は擦り切れていた。


「それでは、次の方どうぞ」


 ドアが開く。現れたのは、黒髪ぱっつんの小柄な少女。履歴書には大きく「特技:目を裏返せます」と記されている。佐伯は心の中でため息をついた。


(どうせ、まぶたをペロンとやるアレだろ……)


 それでも一応、形だけでも聞いてやるのが面接官の仕事。


「では、特技の披露をお願いします」


「はいっ」


 彼女は目を見開いた。その瞬間、両手の指を使ってまぶたを押し広げ——いや、違う。


 指が眼窩に潜り込んだ。


 ぬるり。

 ずるり。


 眼球が、音を立てて取り出された。


「……っ!」


 佐伯は息を飲むこともできず、椅子の背にのけ反った。


 少女は両手にそれぞれの目玉を持ち、無造作に机の上に置いた。ゼリーのように揺れる眼球。その視神経の切断面からは透明な粘液が糸を引き、乾いた面接室の空気に濡れた音を立てる。


「……裏返しますね」


 彼女は眼球を指でつまみ、くるりとひっくり返す。裏側はまるで腐った桃の内側。毛細血管が網のように広がり、肉の繊維が赤黒く蠢いていた。


 ひとつ、ふたつ。


 裏返された目玉を、また眼窩に押し戻す。


 じゅぷっ。

 めりっ。


 軋む音とともに眼球が収まる。彼女はまばたきを一度して、朗らかに微笑んだ。


「できました」


 佐伯は無言でチェックシートに何かを書き、ボールペンを置いた。


「……本日は貴重なご披露、ありがとうございました。結果は後日、ご連絡させていただきます」


 少女が部屋を出ていくと、佐伯は深く深呼吸し、次の履歴書をめくった。口の中にはまだ、鉄のような味が残っていた。



(次は……“特技:机の上に手のひらつけたまま腕を回せます”……?)

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