第23話 討伐の報酬
「アンリミテッドランクのグランド・リーク。モンスター討伐の報奨金を受け取れ」
「ど、どうも」
俺は冒険者ギルドから呼び出しを受け、ギルド本部にあるギルドマスターの執務室に来ていた。
目付きの鋭い、栗色の長い髪をした大人の女性、ギルマスのアリスから、先日のモンスター討伐についての報奨金をもらう。
金貨がギッシリ詰まったでっかい革袋を差し出され、目を見開く。
すごい大金だ。コイツは全部で五〇〇……いや、一〇〇〇Gはありそうだな。
「とりあえず、一二〇〇G出ている」
「せ、一二〇〇? マジか……」
普通に働いた場合、月に二〇G、年間で二四〇Gぐらいか。
一二〇〇Gって、五年分ぐらいか。そんなにもらっていいのか? もらいすぎなんじゃ……。
「レアモンスターを多数倒したそうだな。これでも少ないぐらいだ」
「そ、そう……なのか?」
するとアリスはため息をつき、やれやれとばかりに呟いた。
「少しは自覚しろ。お前が倒したダークメタルゴブリン一体にしても、かなりのレアモンスターで、報酬は高額だ。それを千体以上倒したのだから、本来なら報酬は億を超える」
「ええっ!? そ、そうなのか?」
「しかもダークメタルオークやドラゴン、謎の魔族までも倒したらしいな。報酬金は百億を超えるだろう」
「ひゃ、百億? そんなに?」
もう、億を超えた時点で俺には想像もつかない金額だ。なにに使えばいいのやら。
しかし、ちょっとレアだったとは言え、あの程度のモンスターを倒したぐらいでそんなにもらえるのか? 話を盛ってるんじゃ……。
「グランド。お前はもう少し、世間を知るべきだぞ。お前が普通に倒せるというモンスターは、常人には、いや、トップクラスの冒険者や騎士でも倒せないような難敵なのだ。それを倒せるというのがどういう事なのか、考えた方がいい」
「……?」
俺が普通に倒せるモンスターを、普通は倒せない? そうなのか?
そうなると、やはり俺が受け継いでいる『無限覇王剣』は無敵の剣技という事なのかな。
だとしたら鼻が高いぜ。この際だから、衰退しまくって滅びかけているうちの流派を、覇王剣を広めるよう努力するべきか。
「ギルドが金額を設定していなかったレアモンスターなので、この程度の報酬になってしまった。すまないな」
「い、いや、これでも十分高額だよ。家のローンが払えそうで助かるよ」
「レアモンスターについては報酬金額を設定し直す予定だ。それはそれとして、お前には王国側からも報奨金が出るらしいぞ」
「えっ? 王国からって……どういう……」
首をかしげた俺に、アリスはため息交じりで呟いた。
「王国騎士団の討伐隊に加わってモンスターを倒したからだ。同じ隊の騎士達の評価はかなりのものらしいぞ。お前に名誉騎士の称号を与えるべきだという意見も出ているとか」
「騎士の称号? いやいや、冗談だろ」
さすがにそれはないだろ。俺みたいな田舎に引きこもっていた平民の剣士に騎士の称号とか。ありえないよな。
そもそも、モンスター騒ぎの黒幕は魔族で、その魔族は俺を狙っていたらしいのだから、騒ぎの元凶は俺の存在なわけで。
そんな俺がちょこっとモンスターを倒したぐらいで評価されるのはおかしいよな。むしろ迷惑かけてごめんなさいと謝りたいぐらいなのに。
「なんというか、お前は色々と自覚した方がいいぞ。魔族がお前を狙っているのも、お前の実力が原因なのだろうし」
「うーん、どうだろ。俺は一応、かつては世界最強と呼ばれていた剣技を受け継いでいるわけだけど……今となっては時代遅れなんじゃないか? もっと斬新で強い剣術の流派や、剣士がいるんじゃないかな」
「そんなのが存在しているのならいいが……いない場合、お前とその流派が人類最後の切り札なのかもな」
オーバーだなあ。考えすぎだって。
俺が受け継いでいる剣術にそこまでの力はない。
いくらかつては世界最強の剣技と呼ばれていたと言っても、それは剣術の世界においての話だろう。
人類の命運を左右するほどのものじゃないと思う。
「それはさておき、ちょっと小耳に挟んだのだが……」
「ん?」
「お前、以前に剣術を教えた子達を自分の周りに侍らせてるそうだな。このドスケベ野郎が」
「は、はあ? なにを言って……そんなわけないだろ!」
「とぼけるな。Sランク冒険者のシェリル、王国騎士団のロディエルド、傭兵団団長のマルシア……十代後半の若い子をそばにおいてナニをさせてるんだ? いやらしい……」
アリスからゴミ虫を見るような目でにらまれ、嫌な汗をかく。
いや、なんでそうなるんだ。俺はただ、昔の教え子達と再会しただけなのに。
「みんな、若くて美人なんだから、俺なんかの相手をするわけないだろ。おかしな事言うなよな」
「本当か? 弟子の成長を見てやるとか言って、やらしい夜の特訓を強要したりしてるんじゃ……」
「んなわけあるか! 俺をなんだと思ってるんだよ!」
俺は懸命に否定したが、アリスは疑いの眼差しを向けてくるだけだった。
ひどいな。これでもずっと真面目に生きてきたつもりなのに。
若い女の子になにかしようとした事なんて一度もないぞ。……ないよな?
「いい歳をしていて独身だから問題なのかもな。……そろそろ身を固めたら?」
「いや、そう言われてもな。相手がいないし」
「やれやれ、お前の目は節穴らしいな。相手がいないのなら……私なんてどうだ?」
「えっ?」
アリスからおかしな事を言われ、首をかしげる。
コイツはギルマスで、旧知の仲だ。もういい歳だが俺よりははるかに若く、おまけに美人だ。
以前、王都を訪れた際には、ギルドで仕事を世話してもらったり、剣の手合わせをしたりした。そこそこ親しい間柄だったと思う。
しかし、決してそういう関係じゃないし、おかしな雰囲気になった事もないはずだが……急にどうしたんだ?
アリスは俺から微妙に顔をそむけ、栗色の髪を指先でいじりながら、顔色を窺うように俺の方をチラチラと見ていた。
なんだか微妙に女っぽいポーズを取っているような……気のせいかな。
「急に言われてもなあ。アリスは、俺なんかが相手でもいいのか?」
「あ、あー、いやその……私もいい歳だし、特に相手もいないし、それならお前なんかでもいいかもと思っただけで……」
本気じゃないのか。ちょっとドキッとしたな。
アリスは美人だし、性格も悪くない。俺なんかでもいいと言うのなら、お願いするのもありか?
そこで執務室のドアがバーン! と音を立てて勢いよく開き、俺とアリスはギョッとした。
「グランドさん。用事は終わりましたか?」
「お、おう、シェリル。あれ、なんでここに……?」
「グランドさんがギルマスに呼ばれたと聞いたので。おかしな事になっていないか、確認しに来ました」
「そ、そうなのか。お疲れさん」
いきなり執務室に飛び込んできたシェリルに、俺は驚き、アリスも目を丸くしていた。
アリスは真っ赤になり、顔をそむけていた。
あれ、どうかしたのかな? なんだか様子がおかしいが。
「ギルマス、まさかグランドさんに結婚を迫ったりしたんじゃ……」
「あ、あはは、なんの話かなー? 大人同士の会話に割り込むんじゃないぞ、小娘。あははは……」
「……」
シェリルはなにかを探るような目でアリスをにらんでいた。
アリスは目を泳がせ、大量の汗を垂れ流していた。なにかマズイ事でもあったのか?
「行きましょう。こんな所にいたら結婚させられてしまいます」
「おいおい、そんなわけないだろ……って、痛いよ! 引っ張るなよ、シェリル! 痛いって!」
シェリルに手首をつかまれ、俺は執務室から引きずり出されてしまった。
アリスが真っ赤な顔で小さく手を振っていたが……あいつも様子が変だったな。どうしたんだろう。
「気を付けてください。ギルマスはあの年で独身で、どこかの誰かにしか興味がないらしいですから」
「そうなのか。どこかの誰かって誰だ?」
「……知りません」
シェリルはなんだか不機嫌そうだった。なにかあったのだろうか。
俺が首をひねっていると、シェリルは話題を変えてきた。
「私達は、改めて鍛え直すつもりですが……頭数が足りないのは否めません。グランドさんがこれまでに教えた弟子達に声を掛けてみてはどうでしょう」
「うーん、そうだな。最初に教えたシェリル達の後に、何人かに教えてはいるけど……」
数だけなら、シェリル達の後には八〇人ぐらいに教えているんだが。
そのほとんどが基礎訓練の段階で逃げ出してしまい、残ったのは毎回二、三人程度なんだよな。
ちゃんと基本技を最後まで教えてあげられたのは、シェリル達三人を除けば、一七、八人ぐらいしかいない。
数は少ないが、それらがみんな、免許皆伝の腕前になってくれれば……魔族に対抗できる戦力になるかもしれない。
だが、それは同時に魔族との戦いに巻き込んでしまう事になる。
俺としては避けたいが……魔族の狙いが、俺個人を倒す事に留まらず、人類全体を滅ぼす事にあるとしたら、そうも言っていられないか。
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