第20話 王国騎士団本部
なるべく無関係の人間を巻き込みたくはない。
だが、相手が魔族だというのなら、対抗できる戦力をそろえておきたい。
矛盾しているようだが……俺一人で魔族連中と渡り合うのは無理だし、少しぐらい助っ人を当てにしてもいいよな?
「私が手をお貸しします。お任せを」
一番に名乗りを上げたのはシェリルだった。
Sランクの冒険者で、王都でもトップクラスの戦士が手を貸してくれるというのならありがたい。
シェリルは過去に俺から剣術の指導を受けたらしいんだが……俺の記憶にある『シェリル』とは別人すぎるんだよな。
あの『シェリル』ではないとすると、誰なんだろう? 思い出せないのが歯痒いな。
「敵が何者であろうと、王国騎士団が全面的に協力しますわ! お任せくださいまし!」
ロディエルドはそんな事を言っていた。
ありがたいが、王国騎士団がそれで大丈夫なのか? ちょっと心配だ。
彼女は騎士団の副団長で、第二部隊の隊長だって聞いたな。つまり騎士団のナンバーツーって事か。すごいんだな。
「騎士団長は、今もオーウェンの旦那なのか?」
「はい、そうですわ! おじさまに話したら、ぜひともグランド様にお会いしたいと」
「そっか。ちょっと挨拶しとくかな」
王国騎士団の団長は、ロディエルドの叔父さんが務めているらしい。
オーウェンのおっさんか。まだ現役なんだな。
あのおっさんとは旧知の仲だ。十年以上前、姪っ子を鍛えてくれと言われて、幼い少女を預かった。
その子は人見知りが激しく、引っ込み思案だったが、負けん気が強かった。
ほとんどの門下生がやめていく中、その子は残っていた。泣きながら剣を振るって、誰よりも早く『烈』の基本技を修得していたっけ。懐かしいなあ。
王都の北部、王城の近くに隣接した施設。
それが王国騎士団本部だ。王国一の、そしてこの大陸全土においても最強と呼ばれている、王国騎士団の本拠地だ。
所属している騎士は数百名に上り、一人一人が一騎当千の強者だ。冒険者ランクならA以上の者ばかりらしい。
今後の事も考慮して、騎士団に話を通しておいた方がいい。
そんなわけで、俺は騎士団の本部を訪問した。
案内役はロディエルドで、なぜかシェリルも同行している。
やたらと大きな、馬鹿でかい建物に圧倒されてしまいつつ、騎士団本部を奥へと進む。
建物の最奥に、その部屋はあった。ナイトマスター、王国騎士団長の執務室だ。
だだっ広い部屋の奥には、重厚なデスクがあり、そこには髭を生やした厳つい顔付きのオッサンが鎮座していた。
「ど、どうも。お久しぶりです」
「……なにが、どうもだ。何年振りだ、グランドよ? たまには顔を見せに来い」
ギロッとにらまれ、冷や汗をかく。
相変わらずおっかないな。もういい歳だろうに、すさまじい闘気と剣気をまとっている。まだまだ現役ってとこか。
オーウェンのおっさんは俺の顔をジロジロと見やり、やがてため息をついた。
「まだ独り身らしいな。そろそろ家庭を持ってはどうだ?」
「い、いやー、相手がいなくて……ははは……」
「うちのロディエルドはどうだ? 割と器量よしだぞ」
「えっ?」
おかしな事を言われ、隣に立つロディエルドに目を向ける。
彼女は耳まで真っ赤になり、猛然と抗議した。
「な、なにを言われるのですか、叔父さま! ば、馬鹿じゃないんですか! どうかしていますわ!」
「そうか? しかし、ロディよ。お前は昔から、剣の師匠であったグランドに昏倒していて……グランドの嫁になると言っていなかったか?」
「ギャーッ! ギャアアアアアアアアアアです! やめてくださいまし! アホですか叔父様は!?」
ロディエルドは真っ赤な顔で吠え、なにやら取り乱していた。
彼女から鬼気迫る形相で迫られ、騎士団長のオーウェン殿は、弱り果てた顔をしていた。
「う、うむむ……なぜか私が非難されて……意味が分からぬのだが……」
「叔父様は偉大な騎士ですが、アホですわ! もっと空気を読んでくださいまし」
「そ、そうなのか。あとで相談するとしよう。それはそれとして、グランドよ」
「はい」
「貴様が、魔族に狙われているというのは分かった。魔族は人類の天敵であり、最も警戒するべき宿敵だ。今後は、王国騎士団が全面的に協力すると約束しよう。とりあえず、ロディエルドを貴様の護衛に付けるとしよう」
「は、はあ、どうも。……えっ?」
俺の護衛に、王国騎士団副団長のロディエルドさんが付く事になったらしい。
いや、いいのか、それ。貴重な戦力を俺なんかの護衛に回して大丈夫なのか?
騎士団長のオーウェンは、神妙な顔でうなずいていた。
「ロディエルド本人のたっての希望だ。私にはどうしようもない」
「い、いや、いいんですかそれで。ロディエルドさんは、王国騎士団でもトップクラスの実力者なんじゃ」
「その通りだが。本人が希望しているので仕方あるまい」
「えー……?」
なんだかおかしな事に。
俺が魔族に狙われているのは事実だが、だからと言って、王国騎士団の最強戦力を護衛にしていいのか。
王族とか、王都の防衛に回した方がよくないか。どうなってるんだよ。
「私もそう思う。だが、ロディエルドが貴様の護衛をしたいと言って聞かないのだ。もはや黙認するしかなくてだな」
「は、はあ」
よく分からないが、そういう事らしい。
魔族の企みを防ぐため、か。それなら仕方ないのかもな。
「そのようなわけですので、私にお任せですわ。付きっきりで護衛させていただきますので、大船に乗ったつもりで……」
「必要ないわ。グランドさんには私が付き添うから」
それまで黙っていたシェリルが口を開き、やや強めの口調で言う。
ロディエルドは眉根を寄せ、シェリルに鋭い眼差しを向けた。
「なにか言いました? よく聞こえなかったのですけど」
「あなたの護衛など必要ないと言ったのよ。私がいるから」
「ま、まあ、なんて失礼な人でしょう! 言っておきますけど、騎士というのは護衛のプロですのよ! 素人は引っ込んでてもらえます?」
「私はSランクの冒険者。護衛任務は得意中の得意よ。あなたこそ引っ込んでいたら?」
「なんですってえ……!」
「なに? やる気?」
二人はにらみ合い、なんだか揉め始めた。
またか。なんでそう仲が悪いんだ? 過去になにかあったのかな。
「モテモテだな、グランド。よかったな」
「いや、別にモテてるわけじゃ……」
「それで、どっちを護衛に選ぶのだ? 好みの方に頼んでみてはどうだ」
「えっ」
するとシェリルとロディエルドは顔色を変え、矛先を俺に向けてきた。
「私ですよね、グランドさん。一番弟子である私の方がいいですよね?」
「いいえ、私ですわ! グランド様の一番弟子にして好みのタイプは私以外に考えられません! そうですよね?」
「い、いや……急にそんな事を言われても……」
二人から詰め寄られ、俺は戸惑うばかりだった。
オーウェンのおっさんはニヤニヤ笑ってるだけで助けてくれないし……勘弁してくれよ。
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