第17話 ドラゴン討伐
それなりの数のモンスターは片付けたのだし、そろそろ引き上げようか、という事になりそうだった、その時。
森の奥の方から、木々が倒れるような音と、人々のどよめきらしき声が聞こえてきた。
「な、なんだ? なんだかヤバそうな……」
「他の討伐隊が、なにかと接触したようですわね。行ってみましょう!」
ロディエルドが指示を出し、騎士達が一斉に騒ぎが起こった方へと走る。
やや遅れて、俺とシェリルも皆の後に続いた。
森を抜けた先に、開けた場所があった。
そこにはかなりの数の騎士達と、冒険者達の姿があった。モンスターの退治に向かった他の集団か。ザッと見て一〇〇人近くいる。
そして、その場にいたのは、彼らだけではなかった。
岩のごとき皮膚をした、小山のように大きな爬虫類。長い首と尻尾を持つ、四つ足でのしのしと歩く、モンスター。
ドラゴンだ。しかも、三体もいる。
戦っていた連中は負傷者だらけで、もはや壊滅状態だった。
「あなた達は下がって! 後は私達が引き受けますわ!」
ロディエルドが叫び、戦っていた連中を下がらせ、彼女の部下達が前に出る。
ドラゴンが火を噴き、盾を構えた騎士がそれを防ぐ。
よりによって、ドラゴンか。また、とんでもないのが現れたな。
言うまでもなく、最強クラスのモンスターだ。あいつらはとにかくでかくて、手強い。
生き物の強さは基本的に大きさに比例する。ドラゴンは大型モンスターの代表格みたいな存在だ。
目の前にいるのは、皮膚が茶色で、四つ足歩行するタイプ。ドラゴンの中では、知能が低く、弱い部類に入る。
だが、身体の大きさが示しているように、すさまじいパワーと頑強さを備えている。弱い部類と言っても、通常のモンスターに比べればはちゃめちゃに強い。
あいつらの大きな口で食い付かれたり、長い首や尻尾で打たれたり、巨木のような太い足で踏み付けられたりしたら、人間なら即死だ。
そして厄介なのが、口から吐く炎の息、ファイヤーブレス。
やや強めの火炎魔法程度の威力とは言え、炎というのは生き物を殺すのに最も適した攻撃方法だ。大概の生き物は、炎で焼かれれば大ダメージを負う。
負傷者のほとんどが、防具や衣服を焼かれている。
今回のモンスター討伐においては、騎士団の騎士達にしろ、冒険者連中にしろ、それなりに場数を踏んだ、手練れが集められていると聞いた。
それでもさすがに、ドラゴン三体を相手にするのはキツいわけか。
「一度に三体を相手にするのは無理ですわ! 一体ずつ、集中攻撃を行いますわよ!」
ロディエルドが叫び、騎士達が動く。
見事な指示に、いい動きだ。さすがは王国騎士団、優秀だな。
さて、それでは、助っ人の俺は……彼らの邪魔をしないように気を付けて、手を貸すか。
騎士団は、左端のドラゴンから倒していくつもりみたいだな。
なら、俺は、右端のヤツから仕留めていくか。
「グランドさん? なにを……」
「俺が右のヤツの相手をする。シェリルは真ん中のヤツを牽制してくれるか?」
「わ、分かりました! お任せを!」
笑顔で答えてくれたシェリルにうなずき、俺は前に出た。右端のドラゴンへ向かう。
一体一体がかなりでかいだけに、ドラゴン達は、それぞれがぶつかり合わないように、かなり間合いを開けている。
すなわち、複数の戦力が一体ずつに集中して対応すれば、他のドラゴンからの攻撃を受ける可能性は低くなる。
俺とシェリルが二体を押さえれば、残る一体を騎士団が仕留めてくれるだろう。
「グルルルル……グォオオオオオオアアアアアアアア!」
俺が真正面から近付くと、右端のドラゴンは、馬鹿でかい口を全開にして、大地を揺るがすような咆哮を上げた。
すげえ怖い。ビリビリ来るなあ。こんな馬鹿でかい化け物なんかと一対一で向き合うなんて、普段の俺なら絶対にやらない。
だが、ここには王国随一の戦力である王国騎士団の連中がいるんだ。彼らの援護をするぐらいなら、俺にだってできるはず。
このアホみたいにでかくて凶悪なドラゴンどもが、一匹でも王都に突撃してきたら大事だしな。絶対にここで食い止めないと。
「さすがにこの状況では余裕はないんで、全力で行かせてもらうぜ……!」
「グオァアアアア!」
ドラゴンが俺に鼻先を向け、大口を開き、ファイヤーブレスを放ってくる。
莫大な熱量のそれを横っ飛びで回避し、剣を振るう。
「無限覇王剣、奥義……――『烈風』、閃光斬……!」
愛用の剣を両手で握り締め、高めた闘気を集中、空間を裂くようにして、大上段から地面に向けて、剣を振り下ろす。
剣の軌跡が閃光を生み、光の刃となって、風のごとく吹き荒れる。
奥義、閃光斬、『烈風』。速さに特化した『疾風』とは異なり、一撃の威力を高めた『閃』の奥義。
その一撃はドラゴンの頭部を真っ二つにかち割り、長い首を引き裂き、巨大な胴体をも両断した。
小山のように大きなドラゴンの巨体が真っ二つになり、左右に分かれて倒れていく。
間違いなく仕留めたのを確認し、俺は隣で戦っているシェリルに目を向けた。
「白刃、閃光斬!」
シェリルは全身に闘気をまとって飛び上がり、ドラゴンの頭部に必殺の剣を叩き込んでいた。
ドラゴンの頭部が真っ二つになり、シェリルは下降しながら回転し、光る刃でドラゴンの巨体をザクザクと斬っていた。
全身を輪切りにされ、ドラゴンが肉塊に姿を変える。
膝を突いて着地し、ふう、と息をついたシェリルを見やり、俺は笑みを浮かべた。
「すごいな。さすがはSランクの冒険者だ」
「い、いえ、私なんか、まだまだで……グランドさんこそ、さすがです」
「まあ、俺は年食ってる分だけ、経験があるから……しかし、シェリルはすごいなあ。大したもんだよ」
「そ、そんな……そこまでほめられるものでは……」
「いや、すごいって。俺が昔、剣術を教えてあげた子に同じ『シェリル』って子がいたけど、ここまですごくはなかったよ」
するとシェリルはビクッと肩を震わせ、なぜか頬を染めていた。
「あ、あの、グランドさん? もしかして、私の事を思い出して……」
「『シェリル』の事はよく覚えているよ。すごく気が強くて、プライドの高い子だったなあ。『あんたなんか師匠とは認めないんだから!』って口癖のように言ってたっけ」
「!? そ、それはその……子供ゆえのアレで……決して本心ではなくて……」
「そういや、なにか失敗した時も、絶対に認めなかったっけ。修行中に家の壁に大穴を開けた時も、山奥から出てきたモンスターが体当たりをして逃げたとか言って……」
「な、なんでそんな事を覚えているんですか!? 忘れてください!」
顔を真っ赤にしてうろたえているシェリルに、俺は首をひねった。
俺が昔、剣術を教えてあげたシェリルっていう子の話をしているだけなのに。変な反応をするな?
「そういやあのシェリルは、俺が独身なのを散々馬鹿にしてたっけ。いい歳して恋人もいないなんてどうしようもない駄目人間だとか言って」
「い、いえ、それはその……決して本心では……」
「自分が大人になってもまだ俺が独り身だったら、嫁さんになってやるから感謝しろとか言ってたっけ。俺をからかったつもりだったんだろうけど、あの子は今も覚えてるのかな?」
「……からかったつもりはないですし、覚えてますけど……」
「シェリル? どうかしたのか?」
「な、なんでもありません!」
シェリルは俺から顔をそむけ、絶対にこちらを見ようとしなかった。
同じ名前の子の話をしたりしたから、嫌がられたのかな。シェリルには無関係の話だし。
残る一体のドラゴンは、騎士団が包囲し、ロディエルドがトドメを刺していた。
「はあっ! 『烈』、真空刺斬!」
騎士団の攻撃を受け、身動きを取れなくなったドラゴンの頭部に、ロディエルドが飛び掛かり、必殺の剣を放つ。
さすが、ほぼ奥義と同じ技を使えるだけあって、見事な剣の冴えだ。
闘気を込めた真空の刃によって頭部を貫かれ、巨大なモンスターは絶命した。
着地し、ふう、と息を吐いたロディエルドに、俺は笑みを向けた。
「さすがだな。お見事としか言えないよ、ロディエルドさん」
「い、いえ、私などまだまだですわ。グランド様に比べたら……」
「いや、本当にすごいよ。俺が昔、指導した、泣き虫のロディとは大違いだな!」
するとなぜかロディエルドは目を見開き、硬直していた。
「あ、あのう、グランド様? もしかして、私の事を思い出して……」
「『ロディ』は、すごく泣き虫で引っ込み思案で……なかなか心を開いてくれなくて、参ったんだよなあ」
「そ、それはその……昔の私は、人見知りが激しくて……大人の男の人と接するのが怖くて……」
「でも、すごくかわいくて素直な子だったんだよなあ。この子は絶対、すごい剣士になるし、めちゃめちゃかわいい子になるだろうと思ったもんだよ。今頃、どうしてるかな?」
「……すっごく近くにいると思いますが……」
「そういや『ロディ』も、自分が大人になった頃に俺がまだ独身だったら結婚してあげる、とか言ってたっけ。引っ込み思案のくせにおませさんだったよなあ。俺に結婚してあげるとか言ったの、覚えてるかな?」
「……覚えてますけど。忘れるわけないじゃないですか……」
「ロディエルドさん? どうかしたのか?」
「な、なんでもありませんわ!」
「?」
ロディエルドは俺から顔をそむけ、絶対に目を合わせないようにしていた。
自分と同じ名前の子の話を聞かされて不快になったのかな? 悪い事したな。
それはさておき、見事にドラゴン三体を倒す事ができた。
モンスター討伐クエストとしては上出来じゃないのか? これでもう、王都を凶悪なモンスターが襲撃する事はないだろうし。
だが、そこで。
「……やってくれたな、貴様ら。もしや、『無限の剣士』なのか?」
「!?」
唐突に出現した、謎の存在から妙な事を言われ、皆は愕然としていた。
いや、俺だってびっくりだ。
『無限の剣士』だと? それって、まさか……。
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