戦闘狂な世界最強の魔王、2周目は人間として 〜進化した魔法体系に固有魔法、転生した700年後の世界は俺の楽園(エデン)だった〜

冷凍ピザ

第1話 飽きた世界にさよならを

「……はぁ」


 俺は魔族の国、ベルゼレアの頂点である魔王として君臨していた。


「魔王様、どうかなさいましたか?」


 俺のため息に反応して、毛先が紫がかった黒髪で、エメラルドグリーンの瞳を持つ従者、クラリスが質問を投げ掛けてきた。


「……クラリス、俺はお前のことを最も信頼している。だからお前にだけは話しておこう」


「ありがたいお言葉です。ですが、話しておきたいこととは一体?」


「俺はここを去ることにした」


 俺の言葉を聞いた従者は狼狽え、動揺が隠しきれていない声色で会話のキャッチボールを続ける。


「な、なぜいきなりそんな……ことを?」


「もう疲れたんだ、この世界で生きることに」


「疲れたとは? 私にはよく分かりません……」


「未知の魔法も、競い合うライバルも、越えるべき宿敵もいない。空虚な今に限界が来たんだ」


「……」


「だから……」


 俺は右手を前へ出し、そこ1つの魔法陣を発生させた。


「転生しようと思う」


「……転生!?」


「ああ、この魔法は魂の状態を保持し、器と分離させる。俺はこれを使って新たな存在へと生まれ変わるのだ」


 その瞬間、自分探しの旅にでも出ると考えていたであろうクラリスの表情が一変し、そこには何が何でも俺を止めるという決意と少しの悲哀が浮かんでいた。


「そんなっ! 危険です! 成功する確証はあるんですか!」


「ああ、それは確認済みだ」


 長年付き添った関係であるからこそ俺の断固たる決意が伝わったのだろう。


 止められないと悟ったクラリスの表情には影が差し、完全な諦めムードへ移行した。


「最近、魔王の座の引き継ぎに関することを進めていたのもこのためだったのですね」


「ああ、すまないな」


 右手で待機した魔法陣を発動し、転生の用意が始まった。


「……また、会えますか?」


 じんわり目に涙を貯めながらクラリスは最後の問いを投げ掛けてきた。


「ああ、必ずまた会える」


「必ず見つけ出しますからね。第2の人生を歩むあなたを」


 この会話を最後に魔法が発動し、俺の意識は霧散していった。


***


 意識が途切れたのを感じた直後、体に生暖かい何かが触れるのを感じた。


「赤ちゃん出てきましたよ」


 どこか狭い場所から引っ張り出されると、肌触りの良い布に体を包まれた。


「無事に生まれて良かった」


「あなたの名前はダリウス。ダリウス・ローデンよ」


 俺の生まれを喜ぶ父親らしき男の声と、俺に与えた新たな名を呼ぶ母親らしき女の声が聞こえる。


 俺の知っている言語を話すということは、魔族か人間、あるいは新たに誕生した第3の種のどれかに転生したということか。転生は上手くいったようで良かった。


 そう安心したいところだが、生まれたばかりの俺にはやらなければならないことが2つある。


 ゆっくりと深呼吸をし、小さな体に力を込めて思い切り。


「おぎゃー、おぎゃー」


 潰れた状態の肺を広げて空気を取り込めるようにしなければならない。


 赤子とは泣くことが仕事。元気に生まれたことを伝えるためにもこれは必要な行程だ。


「ちゃんと泣いてくれた」


「元気に育つんだぞ~ダリウス」


 2つ目は魔力量の確認。魔法で魂の形を保持してこの体に転生したので、魂がその容器となる魔力の量は変わっていないはずだ。


 自分の内側に意識を向け、魔力の量を確認してみる。


 ……。


 フフ……ハハハハッ! 


 人間とは比較にならない量の魔力を保持したまま転生している。


 完璧に成功したと判断した俺は、表では赤子として大声で泣き、心の中では高らかに笑っていた。


***


 この世にダリウス・ローデンとして生を授かり早10年。現在の俺は心の底から転生して良かったと感じている。


 転生してから触れるもの全てが目新しく、それが俺にはとても輝いて見える。


 それもそのはず、俺が人間として生まれた時点で転生前から722年という時が経過していたのだ。


 家にあった歴史書を読み漁り、記録されていた魔王の失踪が星環暦せいかんれき671年、俺が人間として生まれた年が星環暦1393年だということを知った。


 つまり現在は1403年ということになる。


 ベルゼレアと人間の国とでは暦が違うのでこうして人間側が記録に残してくれているのはありがたい。


 そして歴史を辿って最も驚いたのは、魔族が既に絶滅していたことだった。


 魔族側での内政の悪化など、色々理由は考えられるが、絶滅に至った決定的な理由は何となく理解している。


 俺は体の中心から右手へ魔力を流し、自分の内に眠る魔法を発動させた。その右手からは混じりけが一切ない純粋な黒色をした物体が現れた。


 全ての人間の体に1つずつ刻まれているその人間固有の魔法。そのままのネーミングで固有魔法と呼ばれている。


 今発動したのは俺の体に刻まれている、影を実体化と操作が行える固有魔法、影界支配エクリプス・ドミネイトである。


 人類が新たに得たこの力に魔族は敗北し、絶滅の一途を辿ることになったのだろう。


 ちなみに固有魔法の名称はそれを持つ本人に決定権があり、これは俺がつけた。


 ……兄には痛い名前だと笑われたが。


 かなり研究のしがいがありそうで、この魔法へは大きな期待を寄せている。


「ダリウス~、夕食の時間よ~」


「はーい」


 俺が生まれた家は父親が騎士をしている下級貴族で、家族構成は父、母、兄、姉、俺の5人。


 家族との関係は良好で、末っ子なのもあって結構可愛がられている。そんな思いが俺に向けられたのはクラリスに続いて2度目だろうか。


 そんな環境の元、俺の素晴らしき第2の人生はスタートした。





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