第11話 ケルベロスの脅威

 朝の陽光が差し込む中、蓮とリザはいつも通り、冒険者ギルドの扉をくぐった。


 だが、その瞬間、空気が異様に重く感じられた。


 ざわつき、怒鳴り声、そして時折混じる嗚咽の音。


 「……何があった?」


 蓮がリザの隣で呟いた。ギルド内の空気は緊張と不安に満ちていた。受付前の掲示板にはすでに人だかりができ、顔なじみの冒険者たちが険しい顔で言葉を交わしている。


 「聞いたか? 南の集落がやられたらしいぞ……」


 「ケルベロスだってよ。三つ首の魔獣……俺たちじゃどうしようもねぇ」


 「……まさか、あのケルベロスがこの辺に出るなんて……」


 リザの声が低くなり、表情が一気に険しくなる。


 その時、ギルドの奥から重い足音が響いた。全員の視線が自然とその音の主に向く。


 「静まれ!」


 その声に、場のざわめきが一瞬にして収まる。


 現れたのはギルドマスター、バーロック・ディン。身長は2メートル近く、岩のような体躯に白髪の巻き髪、そして片目には古傷が走っている。誰もが一目で畏敬の念を抱く存在だ。


 「南の集落は……壊滅した。情報は確かだ」


 冒険者たちの間に、深い沈黙が広がる。


 「ギルド本部への連絡は済ませたが、増援には時間がかかる。我々が動くしかない!」


 そう言って、バーロックは掲示板に新たな紙を打ち付けた。


 《緊急:ケルベロス討伐隊 結成 シルバーランク以上で希望者を募る》


 「……この村にはゴールドランクはいない。だが、奴を放置すれば、次はこの村が同じ目に遭う!」


 ざわつきが再び起こる中、蓮はバーロックの言葉を聞きながら、無意識に右手を見つめた。


 魂装の柄が、かすかに脈打つ。まるで、何かを訴えかけてくるように。


 「リザ……行くか?」


 「うん。たぶん、村に来る。ケルベロスに結界は効かない。入られたら、被害はきっと止まらないよ」


 「だよな」


 二人が静かに手を挙げたその時、背後から声が飛ぶ。


 「おいおい、マジかよ……お前、シルバーになってたのか?」


 振り向けば、数ヶ月前に一度だけパーティを組んだことのある冒険者――ロークが、驚いたように蓮を見ていた。


 「……まあ、一応な」


 苦笑まじりに返す蓮。すると、隣のリザがすかさず胸を張る。


 「当然でしょ! 蓮の攻撃力、あんた知らないでしょ? うちのチワワーズより速いときあるんだから!」


 「マジかよ……」


 周囲の冒険者たちも驚きの目を向けるが、蓮はその視線より、リザの言葉の方が心に残っていた。



 その日の夕方。ギルドの奥にあるホールでは、討伐メンバーの初顔合わせが行われていた。


 全員が円卓を囲むように座り、中央にはバーロックが立っている。


 「初めて組む奴も多い。まずは互いの魂装と戦い方を共有しておこう」


 バーロックが口を開き、自らの紹介から始めた。自身の紹介が終わると、残りのメンバーについても順次紹介していく。


■討伐隊メンバー紹介

バーロック・ディン(リーダー)

 - 性別:男

 - 魂装:クマ(グリズリー)

 - 戦闘スタイル:片手斧と大型シールドを使用。魂操により全身がクマの筋力を得る。高い防御とヘイト管理に特化。

 - 備考:元ゴールドランクの実力者。今でも村の守護者として一目置かれている。


リザ・グラン

 - 性別:女

 - 魂装:犬(チワワ)

 - 戦闘スタイル:魂操“チワワーズ”による索敵・撹乱。素早い身のこなしで仲間の支援に回る。

 - 備考:シルバー中級。蓮の相棒であり、信頼も厚い。


蓮(れん)

 - 性別:男

 - 魂装:ゴリラ※ギルドへの嘘の申告内容

 - 戦闘スタイル:異形の剣による一撃必殺型。高い身体能力による高威力の斬撃が特徴。

 - 備考:シルバー下級。リザの相棒であり、信頼も厚い。


カルナ・ミスト

 - 性別:女

 - 魂装:魚(アロワナ)

 - 戦闘スタイル:水流を使った遠距離攻撃と治癒魔術。補助役。

 - 備考:冷静沈着な性格。水属性はこの地方では珍しい。


ヘムロ・ジャッカ

 - 性別:男

 - 魂装:昆虫(スズメバチ)

 - 戦闘スタイル:毒付きレイピアを操り、短距離飛翔と毒攻撃を併用。空中戦に強い。

 - 備考:口が悪く単独行動が多いが、実力は確か。


ファオナ・リィナ

 - 性別:女

 - 魂装:馬

 - 戦闘スタイル:魂操で1頭のシマウマを召喚し、機動弓兵として戦う。魂装時は自身の下半身も馬に変化。

 - 備考:シルバー上級。


ダント・クロード

 - 性別:男

 - 魂装:トンボ

 - 戦闘スタイル:空中偵察と罠設置、索敵に長ける。複眼による広範囲視認が可能。

 - 備考:寡黙だが的確。索敵と奇襲の要。


 紹介が終わったところで、バーロックが村の地図を机の上に広げた。


 「明朝、ここから南の集落跡地へ向かう。森の中に痕跡が残っている可能性が高い。斥候組はリザとファオナ、サポートはカルナとダント。主戦力は俺と蓮、ヘムロだ」


 「了解」とリザが頷くと、ファオナも静かにそれに倣った。


 「ケルベロスは常識の通じない魔獣だ。奇襲、罠、何でも仕掛けてくる。動き出したら、決して単独行動は取るな」


 全員が神妙な面持ちで頷いた。


 ギルドホールの空気が、次第に戦場のそれへと変わっていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る