第5話

 目標は三人。


 中肉中背、いや少し鍛えている奴が二人。いずれも格闘技等の経験は無さそうな体運び。目に見える範囲で武器は無し。あっても懐にナイフを忍ばせている程度か。まぁ、抜かせないが。


 戦いの基本は不意打ちだ。一対一、正々堂々などカケラも考えない。如何にして効率よく敵を殲滅するか。如何に被弾せず戦いを終えるか。それが重要である。


 だから俺は、気付かれぬうちに素早く二人に接近する。そうして少女に手を伸ばす男の上腕に向かって警棒を打ち下ろした。


「ぎゃっ!!」


 短く悲鳴をあげた男はその場でもんどり打った。声も上げられないほどの痛みがいま彼を襲っているだろう。


 間髪入れずに立ちすくむ二人目の膝に、体重を乗せた蹴りを打ち込む。蹴りというより殆ど相手の膝に勢い良く立つ様な格好だ。すると僅かな抵抗の後、男の膝は逆方向に曲がった。


「なっ! 誰だてめ––––」


 ようやく言葉を発した三人目の声を遮る様に、俺は掌を相手の目に向けた。


「ぐわっ!」


 手首に巻き付けていたフラッシュライトの光を開放してやったのだ。そこからは簡単な作業だ。視界を失った相手を無力化するのは容易い。袈裟斬りで右の鎖骨を折ってやった後に、即座に膝を砕く。


 三人目が無力化したことを確認して、蹲っている一人目の元に戻り警棒で脛の骨を打ち砕く。こうすれば全員後を追って来れない。


 これで戦闘終了だ。


 終わったからにはさっさとこの場を離れよう。長居すればそれだけ証拠が残ってしまう。警察の世話になるに訳にはいかないからな。慎重にもなる。


 痕跡を残さないように靴の裏にカバーも嵌めておいたし、体毛を落とさないよう覆面もした。これで現場には俺に繋がる証拠はないはずだ。


 因みに、顔を少女に見られたが、そこは問題ない。夜出歩く時は用心して人相を変える様心がけている。背格好はなかなか誤魔化すことは難しいが、顔ならばメイクでどうにでもなる。


 その場でへたり込んでいる少女の手を手袋越しに掴んで立ち上がらせ、俺は急いでその場を後にした。


 五分ほど走って繁華街を抜けた。


 ここまでくれば大丈夫か。そう思い掴んでいた少女の手を離し、スマホを取り出す。


『ここまで来れば安全だ。もう夜も遅いからまっすぐ家に帰りなさい』


 打ち込んだ文章を少女に見せる。声を覚えられると厄介だ。少女の証言で俺が犯人であると繋がりかねない。念の為である。


 しかし少女は固まった様にスマホを見続けて動きそうにない。


「?」


 なんだろう、どうして動かないのか。おっと、もしかして。


 俺に惚れたか?


 まぁ、窮地を救われたんだ。今頃彼女には俺が白馬の王子様に見えていることだろう。無理もない、これだけ王道の展開が繰り広げられたんだ。ロマンスの一つや二つくらい起きてもなんら不思議ではない。


 だが、今の俺には色恋沙汰にかまっている暇はない。


 どう断りの文面を書こうかと頭を捻り出したところで、ようやく彼女が口を開く。


「あ、あなた何者、ですか……?」


 意外にも、その声は恐怖に震えていた。なんて事はない、俺はやり過ぎたのだ。惨劇を起こした張本人を目の前に、恐怖で立ち尽くしていただけだったのだ。


 まぁ、彼女にはそう思われても仕方がないわな。


 だとしたら尚更この場をお開きにしよう。警察に通報されても敵わんしな。


 俺はスマホをしまった。それから両手を挙げてがおー、と襲う様な仕草をした。


 すると効果覿面。彼女は弾かれるように慌てて夜の街へと一目散に逃げ去った。


 やれやれ、これで一件落着である。

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