after3 思い出した前世

不起訴処分になった由紀の母親だが。

病院に入院して泣いていたと...新島元秀が聞いたらしい。

それは後悔か。

それとも悔し涙か。

詳しくは分からないが。

新島元秀は「ただ僕としては...反省の礎だ」と語っていた。

「反省の象徴だ」とも。


俺は久々に三連休もあり実家に帰って来た。

それから母さんに再会する。

唐揚げを馬鹿みたいに作られた。

50個。

そんなに食える訳が無く俺は母さんに「いやいや」と苦笑してしまった。


それから俺は父さんに久々に会った。

父さんは元気そうな感じで俺を見ている。

俺はそんな父さんに笑みを浮かべてから自室に戻る。

懐かしい景色がそこにはあった。

実家を出る直前の景色だ。


「なにも変わらず、だな」


すると電話がかかってきた。

画面を見ると新島由紀の文字。

俺は「はいよ」と電話に出ると由紀が「もしもし。幸助?」と言ってきた。


「ああ。どうしたんだ」

「実はもう少しで面会出来そうでね。お母さんと」

「...ああ。精神科に入院したっていう」

「警察病院にね」

「...由紀。どうするんだお前は」

「会わない」


そう言いながら由紀は「あの人は夢を破壊したから」と言ってから沈黙する。

俺はその言葉に窓を開ける。

それからバルコニーに出てから手すりを掴む。


「成程な」

「私が行くのは彼女には甘えになる」

「だろうな。前言ってたな」

「私はもう会わないよ」

「...お前がそういう決意なら元秀に任せたらどうなんだ?」

「役に立たない」

「ワハハwww」


確かにその通りではあるな。

娘馬鹿だし。

そう考えながら俺は涙を拭きつつ「そうか」と言う。

それから息を吐きながら「会えって言っている訳じゃないがお前は...弁護士になっても母親に会わないのか?」と聞く。

すると数秒間の沈黙が有り。

「会わない」と声が聞こえた。


「...そうか。まあ自由にしたら良い」

「だね。私が会う時は...彼女が甘えを止める時だよ」

「だろうな。そう思った」

「子供じゃない。ワガママでも良い。会わないよ」

「...ああ」


空が曇り始めた。

それから少し沈黙があり「話は変わるけどさ」と由紀が少し小さめな声で言った。

俺は「ああ。どうした」と聞く。

由紀は「...最近の事なんだけど聞いてほしい。実は話をすり替えていたけどこれがメインなんだ」と言う。

真剣な顔をしている感じが思い浮かぶ。

俺は砕けて対応する。


「なんだよ?改まってさ」

「...少しずつ私、過去を思い出してきたの」

「ああ。高校時代の...」

「違うよ。前世の浮気模様」


その言葉に俺は見開いた。

頭をハンマーで殴られた衝撃を覚える。

どういう、事だ。

そう考えながら「実は...昨日、掃除中に頭を机で打ったの。そしたら...強い衝撃だったみたいでさ。なんか色々な事が走馬灯の様に頭に浮かんだ」と言ってくる。

俺はスマホを握り締め「...そういうのも思い出したのか」と言う。


「回りくどい事はしない。全てを話すよ。...幸助」

「いや。もう良いよ。いずれにせよお前は反省して」

「違うよ。お互いの為に私が聞いてほしい。この浮気模様。前世の間違いを」

「...そこまで言うなら聞く」

「ありがとう。貴方と出逢った事が嬉しいから。ケジメをつけたいから」


それから震える声の由紀は話を始めた。

震える声でゆっくりゆっくり。



由紀は前世では愛を求める為に浮気をした。

人の暖かみを知りたかった。

だから身体を触らせた。

その理由はすれ違いだったという。

由紀は心から寂しかったと話す。

俺は金を儲ける事が妻の為になると。

そう思い行動をしていた。

しかしここですれ違いがあった。


実は由紀はお金を儲ける事はどうでも良かったのだ。

だが俺はそれに気が付かないままお金を儲ける。

もしくはキャリアにこだわって動いていた。

お金さえあればこの先の人生も老後も家族が増えた時も上手くいくものと思っていた。

だが由紀は実際は親とのいざこざもあり寂しがり屋で意見を言うのが下手だった。

その為、意見が言えないまま気持ちがすれ違っていき。


由紀は寂しさ故に浮気をしたらしい。


俺も由紀も半分半分の...罪だった。


俺は「...前世では性行為もしたしキスもしていたな」とバルコニーから真剣な顔をして住宅街を眺める。

すると由紀は「確かにその通りだよ。思い返せば愚か故に浮気した」と答える。

それから由紀は「だけどまだ話には続きがあるの」と言う。

俺は「?」を浮かべながら前を見る。


「...私は...貴方の子を妊娠していた」

「...だから妊娠は大丈夫だと思ったのもあったってか?」

「そだね。...アハハ。自殺してもおかしいよ。私も貴方も。いや。私は死ぬべきだね。馬鹿だよ」


俺はその言葉に「...だがその事を思い出してくれたのは最大の贖罪だと思う。ありがとうな」と言いながら部屋に戻る。

由紀は「私は前回の世界では寂しさのジグソーパズルを埋めれなかった。埋める方法を知らなかった。だけどそれを知った今回の世界は...本当に幸せ。貴方にこうして愛してもらえて。家族の幸せを得れて。みんなが支えてくれて。ジグソーパズルは完成した」と言う。

その言葉に俺は机を撫でる。

それから写真立てを見た。


「...お前は大切なモノを見つけたんだな」

「もう絶対に裏切らない。過去も何もかもを反省して。貴方を一直線に愛するから。3度目は無いよ。必ず貴方を愛する」

「...今までのお前の姿からそれはもう分かる。お前は最大級に頑張ってるからな」

「それじゃ足りないから。まだ行動で示していく」


それから由紀は「ありがとう。愛してます」と言いながら涙声になる。

俺はその言葉に少しだけ笑みを浮かべつつ。

「ああ。俺も愛してる」と言ってから「また会おうな」と由紀に告げた。

由紀は「はい」と柔和に返事をした。

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