第28話 新島悟の墓

放課後になった。

俺は梓と一緒に帰宅...ではない。

梓と別れて由紀とも別れてからとある場所に行っていた。

それは由紀の弟さんが眠る場所だ。

墓を見に来た。


それから由紀が添えたというお供え物を見つつその場でしゃがみ手を合わせる。

由紀には許可を取ってある。

「そんな場所に行っても」とは言われたが。

俺はこの場所に来ないといけないと思ったのだ。

その理由は、決意の表明、だ。


「...必ず助ける。由紀の。アンタの両親をな。前世は繰り返さないから」


そう言いながら俺は決意の表明をしてから離れる。

それから帰宅する為に墓地を後にしようとした時だ。

車が横を通り停車した。

それは軽自動車。

つまり...。


「アンタか」

「やあ。この前ぶりだね」

「アンタの奥さんが警察に捕まったぞ。俺なんかに構う暇はないだろう」

「僕はどうでも良いと思っているよ」


駐車場に停まりながら降りてくる由紀の父親を見る。

由紀の父親は俺を見ながら煙草を吸う。

それから俺を見据えた。

俺は「...俺はそうは思ってない」と元秀に言う。

元秀は余裕そうに「というと?」と言う。

そんな元秀に俺は少し考えてから「アンタは家族を一応は大切に思っているんだろ」と言う。

元秀の眉が少し動いた。

というのも多少痙攣したぐらいかもだが。


「面白い事を言うね。君は。僕は別に」

「由紀から真実を聞いて俺は真実を考えた」

「...人の話の途中に君は...」

「そうでもしないとアンタは話を聞かないだろ。今がその証拠だ。それにお供え物が新鮮過ぎるしな。由紀が添えたにしては新しすぎる」

「...」


元秀は肩をすくめる。

それから「話は最後まで聞こうか。僕にはそういうつもりはないよ」と言う。

俺は「申し訳ないがアンタの言葉は嘘だ」と告げる。

元秀は眉をまた動かした。

そして溜息を吐く。


「...僕がこの場所に来たのは仕方がなく来ただけだ。新島由紀が骨折したしね」

「仕方ないにしろおかしいだろ。賞味期限を見たが全て昨日。もしくは数日で買ったものばかり。アンタが備えたとしか考えられない。お菓子なら動物が直ぐ持って行く筈だ。片付けてないのはいかがなものかな」

「...例えば僕が備えたとして君はどうするつもりか?僕を改心させるのか?」

「俺はアンタを改心させるのは無理だと思っている」

「じゃあどうするんだい」


そう元秀は小馬鹿にする様に見てくる。

俺は胸を触った。

それから通話になっている自らのスマホを取り出す。

元秀は「?!」となる。

俺は「さっき通話ボタンを押した」と言う。


「...相手は?」

「それはアンタが考える人だ」


スピーカーにする。

すると由紀が「お父さん」と声を発した。

元秀は「...」となりながらスマホを見つめる。

俺はその姿に「由紀。話は聞いていたか」と聞く。

由紀は頷く様に話した。


「お父さん。私、貴方を絶対に許さない」

「...」

「虐待だから。貴方のやった事は」

「...」

「この電話ですら施設からかけるのは大変なんだから」


元秀は煙草をミニ灰皿に収納してから俺を見据える。

すると由紀がこう言った。

「お父さん。貴方は大切なんでしょ。悟が今でもずっと。家族を突き放したし頭がおかしくなっているけど」という感じでだ。

その言葉に元秀は「そんな事はないんだが」と言う。

目線をスマホに集中させている。


「多分私より遥かに貴方は悟を愛してるよ。お父さん」

「...」

「もう止めよう。お父さん。...それからお母さんも...きっとまた家族になれるから」

「...」


スマホから目線を外す元秀。

それから俺を見てくる。

俺はその姿に無言で元秀を見る。

元秀はまた煙草を口にくわえてから火を灯す。

そして息を吐いた。

くゆらせている。


「残念だが」


と元秀が切り出した。

それから少しだけ複雑そうな顔をする。

そして「もう元には戻らない」と言葉を吐いた。

俺は「!」となりながら元秀を見る。

元秀は「...僕は元には戻せないって思う。だから由紀の言っている事は夢物語だ」と言いながら灰を捨てる。


「どうしてそう思うの」

「僕は再生したいとは思わないからだ」

「...お父さんの父親の影響だよね。それ」

「あのハゲは関係無いよ。...僕を捨て駒にしただけだから」

「...お父さん...」

「僕はもうここまで人も家族も息子すら破壊した人間だ。今更後戻りなんか...」

「それはどうなんすか」


俺がそう言うと車に寄りかかっていた元秀が俺を見た。

それから「それはどういう意味だい?」と寄りかかるのを止めてから煙草を携帯灰皿にまた捨てる。

俺は「アンタは戻れる。確実に。俺は今のアンタならきっとやれるって信じてる」と言いながら元秀を見る。

元秀は「それはあくまで可能性、だよね。可能性で全てを見据えるのは心底良くない」と話した。


「君が良い人である事は知った。だが世の中そんなに甘くはないんだよね」

「...」


その言葉に俺は元秀を見据える。

元秀は鼻で笑いながら俺を見つめる。

そして携帯灰皿をポケットにつまらなさそうに入れてから車に乗り込んだ。

ミラーを動かし窓を落とす。

それから「賞味期限で分かるとは恐れ入った探偵にでもなったらどうだい」と軽自動車の窓は閉まり去って行く元秀。

俺は盛大に溜息を吐いた。


「ありがと幸助くん。助かった」

「俺は殆ど立ち向かっただけだから」

「それでもお父さんを説得出来た筈だから。ありがとう」


それから由紀と通話を終了してから俺は振り返って墓地を見つめる。

そして俺は空を見上げた。

目を閉じてから「よし」と両頬をぶっ叩いた。

意を決して頑張ろう。

そう考えながら俺は墓地を後にした。

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