三つの村

「旅の方、どうかなすったか?」


「はい。実はあちらの小屋が空いているようなら暫くお借りしたいのですが、一体どの村にご挨拶に伺えば良いのかわかりませんで」


 旅の親子の父親が、三つの道の始まりの地と隣り合う竹藪を指して言いました。


「ははは、それで行ったり来たりしとったか。よくあんな小屋を見つけたなぁ。わざわざあそこにせずとも、どこかの村で空いている家を借りたいと言えば断る者はいないと思うが……」


「いえ……ここが良いのです。実は私の娘……ここにおるキヨは、やまいに冒されておりまして……うつるようなものではないのですが、村の中にいては皆さんもキヨも互いに息がしづらいだろうと思います。どうか、ここに住ませて下さい。ここは空気も良い、療養にこのような場が良いと言われ探していたのです」


 病だという娘は、長い髪を顔にかけるように垂らしかさをかぶっていた為、顔が見えず異様ではありましたが、村人は気味悪がったり邪険じゃけんにしたりはしませんでした。


「そうか……ふぅむ。詳しくは聞かん。よし、わかった。わしが皆に話をつけてやろう」


 話を聞いた心優しい三つの村の村人達は、旅の親子を心よく受け入れただけでなく、竹藪の中の小屋を綺麗にしてくれました。

 二人は大層喜び、キヨが織ったという布を三つの村に納めました。布は大きな町に持って行くと飛ぶように売れ、三つの村はそれまで以上に潤うようになりました。

 父親は村の仕事を手伝うようになり、キヨは譲り受けた機織り機を動かす平穏な日々をおくり、気づけば一年が経とうとしていました。


 季節の移ろいを追い抜くように、村の様子が変わったのは突然のことでした。


 初めに暮らしが苦しくなったのは、中の村でした。広い広い田畑があり、毎年、豊かすぎる程に作物が実っていた中の村でしたが、どうした事か作物がほんの少ししか実りません。いつもは優しい隣り合った村の者も、自分の村の事で手一杯で助けてくれない。このままだといつ死人が出てもおかしくない、と皆が気を揉みました。


「キヨの織った布がもっと沢山手に入れば、儂らの村は助かるんじゃなかろうか」


「だがのぉ。キヨは三つの村に順に布を配っとるだろ。他の村が黙っとらんだろうなぁ」


 物は試しにと中の村の者がキヨの父親に頼んでみると、思いがけない答えが返ってきました。


「三つの村の皆様に平等にと思うておりましたが……もしも中の村のどなたかがキヨと夫婦めおとになってくださるなら、おのずと布が多く手に入ることになるやもしれません。やまいを気にせずに、キヨを心から愛してくれる方はいませんか」


 欲が芽生えた中の村で、話し合いがされました。


「あのキヨという娘、結局なんの病なんだ?」


「わからん。ありゃ顔が醜い言い訳でもしとるんだろ。佐平さへい、ちょうどお前に嫁をと思っとった所だ。醜女しこめでも良いだろ。お前、明日の朝になったらキヨの元に行って、病は顔が悪い事か聞いてこい。わっはっは」


 当の佐平は気乗りしませんでしたが、村の皆に言われては仕方ありません。朝になると言われた通り、キヨ親子の暮らす小屋を訪ねました。


「今日は、親父はいないのか? お前一人か?」


 相変わらず顔を隠すように前髪を垂らしているキヨの気配にゾクリとしたが、それに気づかれぬよう大声を出しました。


「はい。父は町に出かけております。父に御用ですか?」


「そうか。いや、いい。儂は中の村の佐平だ。お前の病というのは何だ? 顔が醜いのか?」


「ふふ。随分と明け透けにおっしゃいますね。ですが、病のことはどなたにも打ち明けないと父と約束しておりますの」


 初めて聞くキヨの声は意外にも軽やかで甘く、佐平は安心して気が緩みました。


「その親父が、お前が嫁に行くのを望んどったらどうだ。多少醜女でも我慢してやるから、儂の所に来い。醜くても明るい方がマシだ。そう顔を隠していては気味が悪いだけだぞ」


 佐平は好き勝手言うとキヨに近づき、髪を下からすくい上げ、顔を覗いて悲鳴を上げました。


「何だ? お前……その……」


「口にしない方が良いと思います。これは病ではなく呪い。この事どなたかに話したら、その場でたちまち死にますぞ? 父が何を申したか知りませんが首を突っ込まぬ事です」


 佐平は逃げるように中の村に戻ると、そのまま寝込んでしまいました。

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