第6話

🔳六月四日

 幼い頃母親に連れられてよくこの家を訪れた事を思い出した。親もまだ車を持ってなかったので、当時住んでいた町から汽車と軽便けいべんとバスを乗り継いでやって来ていた。


 昔はこの辺りにも集落があったので、近くにバス停があったが、一軒、二軒と空き家になっていくと、バス停は遠くなってしまった。


 この家を下ったところに唯一あったご近所さんも数年前にいなくなった。ポツネンと一軒家というテレビ番組があるが、そのうちここに来るかも知れない。来たらどうしよう。


 午前中、車で歴史資料館に行ってみた。河童伝説について何かあればと思ったが、この辺りの事は書かれていなかった。


 隣の市にあるダムには伝説があるようだ。


 資料館の五人のスタッフは皆、河童伝説については知らないと云った。年齢は二十〜五十代だった。



 えびす温泉で、一人河童伝説を知っている人がいた。七十九歳だった。


 この頃、耳鳴りのような、誰かの声のようなものが頭の中で聴こえる。気のせいなのか、それともこれが老化というものなのか。





🔳六月十一日

 河童の正体について、面白い説があるようだ。間引きされた人間の子どもの水死体説、オオサンショウウオ説、水辺で遊ぶ猿説、その他ふざけたものもあるが、この三つはありそうな気がする。


 この中の、子どもの水死体説には、かなりの説得力を感じてしまった。


 曰く、水死体の皮膚は緑色、頭髪は川底に削られて禿ハゲる(皿)、背中は膨張して甲羅のように見える、肛門は拡張して尻子玉を抜かれたようにも見える、内臓はすかすかで食べられたようにも見える。


 つまり河童の正体は江戸時代に頻繁に行われていた『間引き』された幼児の水死体なのだ、という説だ。説得力があっても、信じたくない説ではある。


 夷温泉でまた一人河童伝説を知る人に会った。七十七歳だった。温泉ばかりで聞き込みをすると、男性だけに限られてしまう。何とかしないと。


 耳鳴りは次第に大きくなっている。いや、耳鳴りというより誰かの声のようだ。

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