第4話

 🔳四月二十四日

 今日は私の誕生日だった。妻が生きていた頃はおめでとうくらいは云って貰えたが、今日は誰にも祝って貰えなかった。


 子ども達からの電話もなかった。温泉ついでに街に出かけ、ショートケーキを買って一人で祝った。


 ケーキ屋の五十代前半の女性店員は、河童の伝説については、聞いたことがないと云った。




 🔳四月三十日

 下の川に降りて、祖父の話をよく思い出してみた。どの辺りで河童を見たと云っていたか。川に沿って草ぼうぼうの道を歩いてみた。


 川は道路と平行に流れていて、道路をくぐるようにトンネルのような場所があり、そこは奥に行くに従って深くなっている。水の色が深い青になるのでそう思ったのだが、確かそのトンネルの中に河童がいたと祖父は云っていた。


 トンネルを覗いてみた。入り口を丈の長い草が覆っていて半分くらいしか見えない。水は確かに深い青色で、何かが棲んでいるかも知れないと思わせる怖さがあった。


 道路に戻る時、左手の薬指の先をヨシの葉で切った。にじんで来た血を思わず口で吸ってしまった。ざらりとした感覚を舌が覚えたが構わず飲み込んだ。指が土か何かで汚れていたのだろう。


 出血する怪我も血の味も久しぶりだった。以前はよく真新しい原稿用紙で指を切ったものだ。紙とか葉っぱで切ると余計痛い気がする。


 よもぎがあちこちに生えていたので、潰して傷口に塗ってみようかとも思ったが、砂埃すなぼこりまみれの葉っぱを塗りつける方がかえって悪くなりそうだったのでやめた。血はすぐに止まった。


 えびす温泉より少し遠いが、あかねの里という温泉施設に行ってみた。そこで会った数人にいつもの質問をしたら、二人だけ、聞いたことがあると答えた。八十五歳と八十二歳だった。




 ☆☆


 県警の捜査員は、N社の作業員、宅配便の運転手を突き止めて聴取したが、被害者との関連性はなかった。


 被害者が通う二つの温泉施設の常連客にも聞き込みをしたが、これと言って収穫はなかった。

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