第26話「記録と絆の交差点――新たな試練」
旧税務院跡地での激戦を経て、自由記録協会(F.L.A.)は辛くも“収奪公”カリストの陰謀を退けた。
だが、それは新たな戦いの始まりだった。
残された“虚構の記録”――それは社会の信用構造そのものに深い影を落としていた。
***
クロウは協会の記録室で、深夜ひとり膨大な帳簿と向き合っていた。
虚偽の記録が紛れ込んだせいで、助けを必要とする者が不当に排除され、
あるいは偽善者が称賛されるという事態が各地で発生していた。
「“善意の記録”が、他人の自由を縛る道具になるなんて……皮肉なもんだ」
ラグズが帳簿をめくりながら、苦々しく言う。
自由の記録は、自由だからこそ、常に“善悪の境界”を揺らぎ続ける。
そしてその不確かさは、ときに“信じる力”そのものを試すものになる。
***
ある日、連盟に一人の少女が駆け込んできた。
その名は、ティア・ロングレイ。まだ十歳にも満たない年齢だが、彼女は震える手で一冊の帳簿を差し出した。
「この人……この人は、ちゃんと助けてくれたのに……っ! “記録”が消されてるの!」
帳簿に記されていたのは、農村で起こった洪水の中、村人を救うために命を投げ出した男の話だった。
だがその名は、公式の記録には一切載っていなかった。
誰かが意図的に記録を抹消し、その人物の“信用”を奪っていたのだ。
「――記録の信用を回復するためには、“記録の正しさ”を保証する機構が必要だ」
ラグズがつぶやいた瞬間、クロウは立ち上がった。
「違う。保証するのは帳簿じゃない。“人”だ」
***
こうしてクロウは、新たな制度――**「生きた証人制度」**を導入することを決めた。
それは帳簿に記された記録の一つひとつを、実際に関わった“目撃者”によって検証する新制度。
帳簿だけではなく、語り継がれる“物語”によって記録の信頼を裏打ちするものだった。
「“紙の記録”が嘘をつくなら、“記憶”がそれを上書きする――それが俺たちのやり方だ」
新制度は「証人税理」と呼ばれた。税を徴収するのではなく、真実を証言する義務を人に課す。
それは義務であり、誇りでもあった。
***
ティアの証言によって、失われた記録は復元され、
洪水の英雄・ロルト=ブロックの名誉は回復された。
ロルトの遺族は涙を流し、村の子供たちは彼の勇気を語り継ぐことを誓った。
その出来事は各地に広まり、協会の記録は再び息を吹き返した。
***
だがその裏で、“記録を否定する者たち”もまた動いていた。
新たに現れた謎の集団――その名は**“帳簿を焼く者(ブックバーナーズ)”**。
彼らはすべての帳簿を虚構とみなし、記録という概念そのものの破壊を目指していた。
「記録なんていらない。人間は、生きた証など残さずに、今だけを生きればいい」
そのリーダーを名乗る者――仮面を被った男は、“燃税の魔人”を自称していた。
彼らは村や都市を襲撃し、記録所を焼き払うことで“自由の帳簿”そのものを否定しようとしていた。
***
クロウたちは、この新たな脅威に対抗するべく、
記録保全部隊――通称**“護記隊(ガーディアン・リッジャー)”**を創設した。
記録を守り、語り、次代へ渡す者たち。
その中には、ティアの姿もあった。
彼女は小さな証人から、未来を守る“記録の担い手”へと成長を始めていた。
***
「敵は今度、“記録の意味”そのものを破壊しようとしている。
だが、俺たちは“記録が希望だ”ということを証明する」
クロウの言葉に、かつての仲間たちも立ち上がる。
ラグズ、マール、ナジル、そして記録に救われた民たち。
それは、ペンと声による“物語の戦争”の始まりだった。
***
空が曇る。
燃税の魔人が動き出した。次なる襲撃の地は――記録の都エル・リブリオ。
そこは、あらゆる帳簿が保管される協会最大の記録拠点だった。
「帳簿を……焼き尽くせ」
その命令が出された瞬間、天を割るような赤き炎が舞い上がった。
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