環境にやさしい戦争のはじめかた

鏡 大翔

序章Ⅰ

 世界は愛と平和を謳うくせに、戦争というを放棄することができなかった。


 世界平和条約やら国際戦争放棄憲章やらといった耳障りの良い言葉を並べるだけ並べて、結局どこの国家もそんな約束守らなかったのだ。結果として、三度目の世界大戦──第三次世界大戦は勃発した。


 それはただでさえ少ない世界終末時計の残り時間を大いに食い潰してしまった。


 結局、第三次世界大戦は主要国家が戦争を持続する体力がなくなったことで事実上の終戦を迎えたが、戦争が残した爪痕はあまりに深すぎた。


 資源の枯渇と環境汚染。


 戦争の負の遺産とでも呼ぶべきこれらの問題は、人類を存続に危機にまで追い込んだのだ。


 核兵器や生物兵器の使用によって人類の生存域は大いに狭められ、石油や天然ガスといった資源もほぼ底をついた。もはや国家という枠組みは崩壊し、いくつかのコミュニティが統廃合を繰り返す。


 研究によると、その当時の文明レベルは19世紀前半──産業革命以前にまで衰退したとされている。


 だが、そのとき一人の科学者が画期的な発明を行う。 


 植物性万能細胞Plant Pluripotent Cell──『フロイライン』。


 PPCとも呼ばれるそれは、技術革命を起こした。


 その人工細胞はありとあらゆる細胞──器官を自由自在にデザインすることができる。『フロイライン』によって車や船、飛行機が造られ、インフラ施設が設計された。


 これによって人類の文化水準は急上昇する。


 だが、もちろん『フロイライン』がもたらしたのは良いことばかりではない。


 さまざまな分野で応用された『フロイライン』は、当然軍事分野にも転用される。


 やはり、世界は愛と平和を謳うくせに、戦争というを放棄することができなかった。


 戦争は人間の性といっても過言ではないが、『フロイライン』によってもたらされた戦争は従来のそれとは大きく性質が異なる。


 『フロイライン』によって既存の動植物の構造を参考に数多の兵器が生み出されたが、それは資源の消費も環境の破壊も招くことはないのだ。

 

 水と空気と日光さえあれば運用することができ、核兵器のように放射能を撒き散らすこともなければ、化学兵器のように生態系を破壊することもない。


 それはまさに兵器としての理想形である。


 こうして『フロイライン』は、を人類にもたらしたのだ。

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