女子高生、異世界で王女に改造されました
ユズキ
第1話 当たったのはハワイ旅行…のはずだった
放課後、制服のまま商店街へ立ち寄ったカエは、福引会場で
ぐるっと回ると、金色の抽選玉がポロリする。その瞬間、酒屋のおやじがアタリ鐘をぶん回しながら絶叫した。
「うおおおおおっ! 大当たりーっ! カエちゃん一等賞おめでとう!」
「は? は!? ハワイって、あのハワイ!?」
「キャアアッ! キマシタワ一等賞!!」
制服のスカートを翻しながら、カエは跳ねるように喜んだ。
「ウソ、ヤバくないこれ! 私海外なんて行ったことないよ!」
手にしたハワイ行航空チケットが、夕陽を浴びて煌めく。
(放課後商店街へ寄り道したら、この
「フッ、今日の私は、きっと幸運日に当たったんだな!」
握り拳が感動で震える。
未だ見ぬハワイに思いを馳せ、嬉しさに顔を輝かせていたその時だった。
足元が、コツンと叩かれたように揺れた。
「なに?」
最初は誰かのいたずらかと思ったが、それは次の瞬間にはっきりと「違う」と判った。
笑い声もBGMもぷつんと消えた。辺りは漆黒に染まり、背筋に冷たいものが這う。
世界が、グニャリと歪んだ。
「うあっ」
足元に光る図形が浮かび上がり、そして激しく吸い込まれた。
グラグラ揺れていた意識が落ち着いてきて、カエは薄っすら目を開くと、
「召喚成功~♪」
「ちょうどよさそうな
「へ?」
至近距離に美女が顔を寄せていた。
(……えっと、なにこの状況!?)
カエは、ぎょっとして目を見張った。
「ねえあなた、喉が渇いたでしょう。これはカリオフィラス領で採れたブドウで造ったジュースよ、飲んで飲んで」
唐突にブドウジュースの入ったグラスを突き付けられ、勢いで思わず手に取ってしまう。
「美味しいからね」
「は、はぁ…」
親し気にニコニコ微笑んでいる美女の、その笑顔に何か不審なものを感じた。
けれど、喉が渇いていた。グラスから甘い匂いがする――断る理由もない。
勧められるまま、そっと口をつけた。
ゴクッと喉を鳴らした時、いきなり心臓が強く跳ね、ドクンと鼓動が上がる。視界が一気に狭まり、耳の奥で「カッ」と弾ける音がした。
喉を押さえ、前のめりに倒れた。
(な…なにが…)
――そこから先は、痛みの連続だった。
全身にビリビリと衝撃が走り抜け、強烈な痛みが身体中に襲い掛かった。
「い…たい」
今まで味わったことのない強烈な痛み。まるで身体のあちこちを引き裂かれているようだ。そして内臓がうねり、筋肉までもがボコボコと踊りだした。
血が湧きたち、骨の隙間に熱い針を何本もねじ込まれていくような、そんな痛みだった。
カエは涙と涎をまき散らし、グネグネと身体を暴れさせた。
「うぐふぁぅ、ごぶぁ」
悲鳴とも呻きともとれない雑音が、締め付けられるような喉から漏れ出す。
(毒を飲まされたんだ…毒を…)
死んでもおかしくないほどの痛み。
永劫に続くと思われたが、次第に痛みが和らぎ薄れ、「ヒュー、ヒュー」と呼吸も落ち着きを取り戻す。身体は小刻みに、何度も痙攣を繰り返した。
(あれ…毒じゃないのかな…)
「カルリトス、どうかしら?」
「うむ、適性があったんじゃの、大成功じゃ」
「まあ嬉しい。13人目でやっと成功したのね、よかったわ」
(なにが…)
目の前の世界は歪み、再び闇に飲み込まれていった。
やがて目が覚めると、全身に怠さが残っている。ベッドに寝かされている、と気付くのが少し遅れた。
意識がはっきりしなかったが、取り合えず身体を起こす。そしてベッドから這い出し、目の前の状況に目と口があんぐり開く。
「…マ、マハラジャ~??」
壁や天井は黄金でキンキラキン、テーブルや椅子も黄金で高級感。床は深紅の絨毯、虎を一頭毛皮をまるごと剥いだような敷物まである。
昔見たインド映画に出てきた、マハラジャの宮殿の一部みたいな感じで、感激を通り越して口がひきつった。
「ははっ、寝てる間に王族に転生したとか?」
非現実な光景に、頭がついてこない。フラフラと室内を歩き、そして姿見の鏡を見つけて前に立つ。
「ンなっ!」
鏡に映った自分を見て、カエはギョッと目を剥いた。
黄緑色と緑色の中間くらいの明るい緑色の髪に、やや褐色の肌。宝石のように澄んだ青い瞳、今までとは違う顔立ち。
「ちょっと待って誰!? これ絶対ヤバイってば!」
バンッと鏡に両掌を打ち付けた。
「いくら田舎のジョシコーセーでもこの見た目は校則違反過ぎるよ!」
「私まだ一年生だよ、これじゃ停学処分か退学になっちゃうじゃん…」
不安げに、髪や顔を何度も触る。
「お母さんもお父さんも、ショックでぶっ倒れちゃう」
カエの懊悩に、うふふっと笑い声が重なる。
「あらあら大丈夫よ。もう学校へ戻らなくていいんだから」
「なぬ?」
声のほうを振り向くと、ゴージャスなキンキラ派手衣装に身を包んだ美女が、輝く笑顔を張り付けて立っている。
「あ、ジュースの人!」
美女を指さしてカエは叫んだ。
「申し遅れました。わたくしの名はバークティ・ミラージェス、あなたをこの世界に召喚した、イリスアスール王国の
「ナンデスト?」
――こうして、ハワイのさらに上を行く”異世界”を引き当てたカエの冒険が、幕を開けた。
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