第十七章:遺された言葉

炎が鎮まり、石窯からは黒く焼け焦げた匂いが漂っていました。


グレーテルの手は震えていましたが、

ヘンゼルは何も言わず、ただ妹の肩に手を置き、静かに言いました。


「……食べ物を、探して…持って帰ろう」

ふたりは無言で食料をかき集め始めました。


戸棚の奥には、干し肉や乾かした根菜、蜂蜜や木の実などが整然と並び、

すぐに食べられるよう、水に浸して戻されているものも多くありました。


量からしても、明らかにふたりのために用意された保存食でした。


「……こんなに用意しているなんて…」

グレーテルがつぶやくと、ヘンゼルもまた複雑な表情を浮かべました。


さらに、ふたりは「触ってはいけない」と言われた壺が並ぶ戸棚に目を向けました。

そこには、数冊の革表紙のノートと古びた本も丁寧に収められていました。


ページを開くと、整った文字で薬草の記録が埋め尽くされていました。


どの草がどの病に効くのか、どの分量で調合すればよいのか、

そして副作用の記述まで、実に詳細に書かれていました。

見間違いやすい野草の違いも図解で描かれており、

その知識は生きるためのものばかりでした。


そして「人を殺す」目的の調合など一切なく、

「熱のある者には○○を」

「心が沈む者には△△と××の煎じ茶を」

といった、実用的で優しい内容がびっしりと綴られていたのです。


そして、シィラの日記と思われるノートも見つかりました。

その文字は優しく、森への感謝や小さな動物たちへの慈しみ、そして──

マレア族の教えを守り、静かに生きてきた孤独な日々が綴られていました。


最近のページには、こんな言葉が並んでいました:


「やせ細った子どもが元気になっていく姿に、胸がほどけていく」


「今日出会った子どもは、家に連れて帰る前に息を引き取った。

 あんなに小さな子が……かわいそうに」


「このところ、森に子どもがよく迷い込む。どの子も、元気にしてあげたい」


「私の手でも助けられなかった。悔しい。悲しい」


「人のぬくもりが、こんなに温かいなんて……忘れていた」


「ヘンゼルもグレーテルも、なんて良い子たちなの」


「……本当はもう帰さなければいけないのに、

 私は……この日々が楽しすぎて、手放したくなくなっている」


「ずっと森でひとりだった。

 でも――私は、もっと多くの人を助けるべきなのかも…」




その言葉を読んだ瞬間、

グレーテルは日記を取り落とし、口元を手で覆いました。


ヘンゼルは唇をかみしめ、目を逸らしました。


「そんな……」

「……僕たち、なにを……」


家の中には、静けさだけが残っていました。






続く~第十八章~



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