第4話 魔法書士?
俺はアルトスが淹れ直してくれた御茶を飲んだ。
今度はカモミールに似た香りと味わいがあり、少しだけ心を落ち着かせてくれる。
「これだけで俺は、魔王の息子だとは信じない。だけどここに連れて来られたってことは、俺には何かしらしなければならないとがあるってことだけは解る」
アルトスはゆっくりと静かに頷く。
「マヒト様には明日、他の相続者様方。御兄様と御姐様と一緒に、魔王様の御遺言書の開示に立ち会って頂きます。そして、魔王様の御意志に則って、相続して頂くことになります」
「放棄することは出来ないのか・・・・・・」
「今は出来かねるとだけ言っておきましょう。私もまだ魔王様がどう言った御意思を遺されたのか知る立場では御座いませんので」
そう言って、アルトスは表情は変えぬまま、申し訳ないと頭を下げる。
俺は少し落ち着くと。今まで魔族とはいえ礼儀知らずな言動をアルトスに対ししていたことを恥じた。
母さんからはいつも「怒りは何も生み出さないと言うけど、本当は更なる怒りを生み出すものなのよ。それより笑っていなさい。格好だけでもいいの。笑ってさえいれば本当に笑える日がきっと来るから」と言い聞かされていたことを思い出す。
「笑いなさい。笑って自分の信じた生き方をしなさい」落ち込んだり、悩んだり、迷ったりした時は決まって母さんは笑顔でそう言ってくれていた。
魔王の子なのかは問題じゃない。俺は紛れもない母さんの子なんだ。こんな時こそ母さんみたく笑おう。
死に顔ですら笑みを湛えていた母さんのように。
受け入れるのはともかく、俺は前を向くことにした。
「ところでアルトス・・・・・・。アルトスさんは一体何者なんですか」
表情筋を何処かに忘れでもしたかのアルトスが、一瞬目を細めた様に見えた。
「まだ詳しく申し上げておりませんでしたね。私は魔王様直下の魔法書士をしております。あと私に敬称はいりません。引き続きアルトスとお呼び下さい」そう言ってまた頭を下げる。
「ではアルトス。その魔法書士っていうのは何?魔法使いとは違うの?」
アルトスは答える。
「マヒト様が考えておられる魔法使いとは、こちらの世界では魔術使いと呼ばれる者達だと思われます」
アルトスは続ける。
「火や雷、氷や水などで相手を攻撃する原理を総じて魔術と申します。その一方で魔法とは魔族法典を意味し、主に魔王様と我々一介の魔族、それに魔族同士の盟約を指します。その盟約を文書にし、その内容の執行を司っているのが魔法書士で御座います」
「そうなんだ。俺の母さんは生前、司法書士を仕事にしてたんだ。『司法』と『魔法』。一文字違いだけど、何だか似ているような似ていないような感じだな。そういや母さんも遺言書を書く手伝いをする仕事もあると言っていた気がする」
「何処の世界にでも形を変えて似たような仕事がありましょう。魔族にもマヒト様と同じ学生もおれば教師もおります」
俺達は同時に、御茶の入ったティーカップに手を伸ばした。
「アルトスも母さんみたいに、魔王の遺言書を書くのを手伝ったの」
「いえそうでは御座いません。魔王様が御書きになり魔術で封印されたものを御預かりしたまでのこと。魔王様の死によって今はその封印が解かれましたので、相続人様全員の前で内容を開示し、魔王様の御意志を実現させることが私の勤めに御座います」
「それは大変そうだ」と俺が言うと。
アルトスは「相続人様の中には、御自分を相続人だと認めたがらないお方もいらっしゃいますし、大変な御勤めで御座います」と表情は変えずに初めて皮肉めいた事を言った。
それを聞いて俺は不覚にも思わず笑ってしまった。
俺は残った御茶を一気に飲み干すとアルトスに最後の質問をした。
「アルトス。魔王の最期を聞かせてくれないか」
「畏まりました」と言って、アルトスも御茶で喉を潤した。
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