【第20章 残された二つの空白】

5W1H:

When:4月18日 朝

Where:星ノ宮学園 図書館地下ホール

Who:碧・早紀・勇希・純子・周・陽翔・麻実・朝子

What:七つの物語のうち五つを修復完了、羅針盤に空白の残り二つが浮上

Why:物語修復の全体像と“書き手の資格”の存在が明かされるため

How:司書の“残滓(ざんし)”との邂逅により、最後の物語へ導かれる

 朝の光が届かない図書館の地下ホール。

 七つの物語を終えた仲間たちが、再びこの場所に集っていた。円形の石造りのホールには静けさが満ち、中央には羅針盤が据えられていた。

 針はゆっくりと回っていたが、今はページ番号ではなく、二つの空白スロットを交互に指していた。

 「“234”の“千夜宮”までで、五つ。残りは……?」

 早紀がスケッチノートを見返す。これまでのページ番号が綺麗に記録されていたが、次に続くはずの箇所は、ただ白紙のままだった。

 「あと二つ。けど、番号がない」

 「これまでの物語には“過去の記録”があった。でも、ここから先は“書かれていない物語”かもしれない」

 勇希が静かに言った。

 「つまり、“白紙”の物語……ってことか」

 陽翔が少し顔をしかめる。「オチが決まってないって、一番不安じゃないか?」

 「でも逆に言えば、“自由に書いていい”ってことよ」麻実が笑う。「私たちが“何を選ぶか”で、未来が決まるなら、けっこうワクワクしない?」

 「それにしても、“空白の二つ”は何を意味してるのかしら」朝子がファイルをめくりながら言った。「七つの物語が必要だと、最初に司書が手紙で残していた。なら、あと二つは“試練”じゃなく“鍵”の役割を持つ可能性が高い」

 「……そういえば、司書本人はいまだに姿を見せてない」純子が静かに口を開く。「ずっと“導き”だけをして、でも“姿”がないなんて不自然じゃない?」

 全員が黙り込んだ、そのときだった。

 羅針盤の盤面が、ゆっくりと霧のように揺れ始める。

 中心から浮かび上がったのは、一輪の桜の花弁。

 「これって……!」

 碧が触れようとした瞬間、霧の中から人影が現れた。

 それは、淡い光に包まれた一人の女性――学園の旧図書室に時折残されていた“雛守 梢(ひなもり こずえ)”と名乗る司書の面影だった。

 「あなたたちは、五つの物語を正しく紡ぎました」

 声は柔らかく、しかし深く響いた。

 「残るは、“書かれなかった二つの物語”。

 一つは、“過去を失った物語”。

 一つは、“未来を与える物語”。」

 司書の姿は、確かにそこにあったが、同時に“現実にはいない存在”のように感じられた。まるで、記憶だけがそこに立っているかのように。

 「七つの物語とは、世界に残された“記憶の断片”です。

 しかし最後に問われるのは――“あなたがた自身に、物語を書く資格があるか”」

 「……書く、資格?」碧が思わず問い返す。

 「はい。“読者”として、物語を見届けるのは容易い。

 けれど、“書き手”として、世界を導く筆を握るには――覚悟がいる」

 司書の視線が、碧と早紀の二人に向けられた。

 「あなたたちの中に、どちらか――もしくは両方が、“次の頁”を紡ぐ“芯”となる」

 「……芯?」

 「物語を紡ぐ者がいなければ、白紙は永遠に白紙のまま。

 けれど、想いのこもった一行が書かれれば、それは“未来の設計図”になるのです」

 その言葉と同時に、司書の姿はふっと消え、羅針盤に再び光が戻る。

 二つの空白のうち、片方だけがほんのりと青く光り始めた。

 「……来るぞ。次の世界」

 碧が声を出すと、全員が静かに頷いた。

 「あと二つ。そこに、俺たち自身の答えがある」

 物語は、次なる境界を越えていく。

 今度は、読む者ではなく、“書く者”として。

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