【第3話 ゴブ、冒険者ギルドに行く】
村を後にしたゴブとシンは、陽の差す田園を抜け、次なる目的地である町を目指していた。
道中、シンが取り出した地図には、この世界の文字が記されていたが、なぜか読める。
彼の持つ「語り手の加護」の影響だろう。
「この先に、冒険者ギルドがある町があるって。旅を続けるにも、お金いるしな」
「冒険者……ゴブは、なれるのだろうか」
「なれなくても、何かしら登録すれば役に立てるはず。ゴブの知識、すごいから」
ゴブは照れくさそうにうつむいた。その背で、小さな背嚢が揺れる。
「爺も、昔ここに立ち寄ったと言っていたのだ」
その言葉に、シンはにっこりと笑った。
「じゃあ、爺ちゃんに挨拶しに行こうぜ」
少し歩いた後、シンがふと空を見上げて呟いた。
「……ギルドって、どんなとこなんだろうな」
*
町に到着すると、石畳の通りの中央に堂々と立つ木造の建物――冒険者ギルドが目に入った。
扉を開けて中に入ると、視線が一斉に彼らに向けられる。特に、ゴブに。
「……魔物だぞ」「なんで入ってこれるんだ?」「受付、止めろよ」
ざわめきと敵意。空気が一瞬で冷たくなった。
「登録、したいんですけどー」
あえて明るく振る舞うシンに、受付の若い女性が眉をひそめた。
「お連れの方は……魔物のように見えますが。通常、従魔としての登録になります」
「え、それはちょっと……いや、だめです。こいつは俺の友達で、対等な仲間なんで」
受付の女性が一瞬目を見開き、戸惑いながらも別の書類を取り出す。
「……そうですか。それでは例外的な措置になりますが、非戦闘支援職として仮登録、という形であれば……一応、記録上では従魔に近い扱いになりますが……」
「やった! よかったな、ゴブ!」
「……ゴブ、受け入れられたのだ?」
「形はどうあれ、ここから始めればいいんだよ」
登録が終わると、斜め後ろのカウンターから嫌味な声が飛んできた。
「へっ、魔物がギルドに? こっちは正規登録だぜ?」
そこには、二人組の若手冒険者。どちらも軽装で、目は笑っていない。
「せいぜい草でも摘んでろよ、雑魚共」
ゴブは反応しかけるが、シンが軽く肩を叩く。
「相手にすんな。草摘みの方が世のため人のため」
*
紹介された初依頼は「薬草の採取」。簡単だが、報酬も少ない。
「ゴブ、こういうの得意なのだ。爺と一緒に何度もやったのだ」
指定の丘に着くと、ゴブは足元の土の状態や湿度を見て、一瞬で判断を下す。
「この辺り、マロ草とスズナ根があるのだ」
驚くほどスムーズに採取が進む。シンも横で手伝いながら感心しきりだ。
ギルドに戻って報告を済ませると、受付の女性が一枚の紙を見ながら小さく呟いた。
「この依頼、実は最近うまくこなせる人がほとんどいなくて……品質も分量も合格ラインを超えるのは久しぶりです」
そして、少しだけ声のトーンを落として、ゴブに微笑む。
「……本当に、すごい方なのですね」
「えっ?」
ゴブがぽかんとする横で、シンがニヤリとする。
受付の女性はシンにも視線を向けて、柔らかく微笑んだ。
「あなたも……いい方ですね」
ギルドの片隅で見習いの少年が小さく呟いた。
「魔物なのに……すごいな」
報酬は通常の1.5倍。受付の奥から年配の職員が一瞬だけ顔を覗かせ、呟く。
「その昔、赤眼の魔物がギルドで人助けをしたと聞いたことがある……思い出したよ」
*
夜。安宿の一室で、安いパンとスープを囲んで乾杯するふたり。
「ゴブ、今日……少しだけ、自信がついたのだ」
「だろ? 俺はずっと信じてたぞ」
「……旅の途中で、爺が何を見たのか、ゴブも知りたいのだ」
「それって、最高の旅の理由じゃん」
ロウソクの火が揺れ、部屋にほんの少しの暖かさを残していた。
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