第4話
城に戻るとメリクはふと、城が何だか騒がしいような気がした。
王宮に入れば案の定、人々がいつも以上に忙しそうに走り回っている。
(……? 何かあったのかな?)
邪魔になりそうなので庭を横切って奥の王宮に入ろうとしたのだが、丁度池のほとりを歩いていると、向こうから見知った顔の女性が息を切らせて走って来る姿が見えた。
「メリク様!」
ミルグレンの侍女頭だ。
ミルグレンの侍女達は活発な王女のあとをついていつも走り回っているが、今は顔に緊迫感があった。
「どうしたのですか?」
「ああ、よかった! お帰りになったのですね! オーシェ家の方に姫様がいらっしゃいませんでしたか⁉」
「オーシェ家に? いいえ……来ていませんが。どうしたのですか」
「いなくなってしまわれたのです! 姫様が!」
「……」
メリクは翡翠の瞳を瞬かせる。
実は、あまり衝撃はなかった。
……というのも王女ミルグレンは自由な少女なので、今までも度々侍女がついて来るのが嫌だと、彼女らを撒いて姿をくらますことがあったのだ。
しかし、それだけでは侍女達の尋常でない様子の説明がつかない。
メリクは考えを巡らせた。
「城を出たと?」
「麓の修道院の者が馬に乗って出て行かれる姫様を見たとか。その後どこに行かれたのかは分からないのです! ああーっ! だからあの姫様に馬は教えないようお願いいたしましたのに!」
侍女頭は髪を掻きむしっている。
「落ち着いて下さい。心当たりはないのですか?」
「今日は朝からご機嫌斜めで、ずっと部屋にいらっしゃったのです。でも午後のお茶の時間に訪ねてみると……もう中はもぬけのカラだったのですわーっ!」
顔を覆って泣き出した侍女頭にメリクは戸惑った。
「今、城の者総出で探しております。城下にも人をやって、それからそれから……!」
「……あの、リュティス殿下はどちらに?」
「はっ? あ、は、はあ、奥館ではないでしょうか……とにかく私、混乱していて他のことには頭が回らなくて……!」
「落ち着いて下さい」
メリクは思った。
全ての魔術師に人探しが出来るとは言わないが、ミルグレンが本当の苦境にある時に、リュティスが奥館に籠ったきりということはあるまい。彼にはそんな確信があったのだ。
リュティスが動いていないということは、何らかの悪しき要因がミルグレンに近づいているということではないのだろう。
つまり、探せばミルグレンは見つかるということだ。
核心に辿り着いたメリクは大きく頷いた。
「僕も城の外を探してみます」
「まあ、申し訳ありませんメリク様!」
「オーシェ家への道は分かりやすいし、人目の多いところばかり通っていくためまず違うでしょう。それに今僕はそこから戻ってきましたから」
「そ、そ、そうですわね。では私達も女王陛下の元に参りますわ。何か情報が入っているかもしれないし……」
メリクは侍女達と別れるとたった今、戻したばかりの馬をもう一度引っぱり出してそのまますぐに王宮を出たのだった。
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