相良理快の明快推理
あしわらん
第1話
昨日中学を卒業した僕らは、入学式を迎えるまでの間、スポット的に何者でもなくなった。浮遊感にも似た所在なさを、僕はこれまでの習慣を継続することで落ち着かせることにした。すなわち、朝のランニング、夕方の走り込み、夜のジョギング。これが中学三年間を陸上部に捧げた僕の骨組みといえる習慣だ。
自主練は基本的に一人で気ままにやっているが、そこへ特定の友人が加わることもある。国立難関コースに所属するあいつは、僕らが部活の時間帯、特別教室に詰め込まれ、演習問題を延々解かされていた。通常、脳筋といえば『脳みそまで筋肉』の略だが、こと僕らの母校においては『脳を筋肉のように鍛えよう!』という体育会系まるだしの標語の略であり、国立難関コースが脳筋コースと呼ばれる所以にもなっている。
勉強ばかりでは息が詰まるのだろう。あいつは時々僕に連絡を入れてくる。今日も『俺も行くわ』という短い文面が夜錬の三十分前に届いた。しかし、いつもなら時間に遅れないあいつがまだ来ていない。まあ、まだ五分過ぎた程度だ。川沿いの土手で体が冷めないようにウォーミングアップを続けながら、僕は時折腕に巻いたスマホをチェックする。
間もなくして土手の下からシュルシュルというポリエステルの衣擦れが聴こえてきた。そのリズムであいつが駆けてくるのを悟った。
友人の名は、
初めて名前を知ったとき当時小学生だった僕は、スーパー戦隊にいそうな名前だなと思った。実際その頃からモテそうな顔をしていたし、みんなの前で臆さずハキハキと自己紹介をする姿は堂々としていて、勇気のあるやつだなと思った。
僕はさっそく相良と遊びたくなり、『りかい君はレッドをやってよ』と声をかけた。当時夢中だったレンジャーごっこに誘ったのだ。相良は『うん、いいよ』と二つ返事で了承した。それなのに、立ち上がるでもなく座ったまま両手を机の中に入れてゴソゴソ何かを探っている。
何してるんだろうと怪しく思って見ていると、取り出したのは謎の四角い物体だ。色は赤・青・緑・黄色・白・オレンジのモザイク状。あとで名前を知ったのだが、そいつはルービックキューブだった。
相良は一瞬で赤面を揃えると、口をぽかんとして間抜け面を晒している僕にキューブを差し出し、『じゃあ、君はグリーンをやって』
意図せずそういうゲームが始まってしまったことに困惑しながらも、こう見えて負けん気の強い僕は本気を出した。その日すべての休み時間を費やし、敵を倒すが如く格闘した。だが、結局相良が揃えた赤面をぐちゃぐちゃにして撃沈したのだった。
その時のことが話題になると相良は笑う。
『もしあの時ピンクをやってと言われていたら、困惑したのは俺の方だったかもしれない』
『そりゃそうだろうな。いろんな意味で』
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