第26話 ズキッと胸が痛む話
フレデリク様は、アンドレ様と正反対のタイプである。『チャラい』という部類に入るのであろうか。にこにこしながら、テンション高く私に話しかける。
「リア!こんなところで会えるなんて嬉しいよー」
「あ、ありがとうございます」
なんて言いながらも、対応に困ってしまう私。
今世、私の周りには、いかにも遊んでいるような男性はいなかった。強いて言えば、元婚約者のパトリック様くらいだろう。貧乏とはいえ、曲がりなりにも私は男爵令嬢だった。両親にはそれなりに育てられ、あまり男性とは関わったことがなかった。
むしろ、チャラそうな男といえば、前世の恋人慎司くらいだろうか。だが、慎司は男友達が多くいわゆる陽キャではあったが、女性関係で困ったことはなかった。……私だけを大切にしてくれた。
なんて返そうか迷っている私に、フレデリク様は矢継ぎ早に質問をする。
「最近のアンドレ、やたら機嫌が良くね?
リアのせいだろ?
アンドレ、あいつ絶対リアに惚れてるだろ? 」
アンドレ様のことを思って真っ赤になってしまう。でも、アンドレ様が私に惚れているということは、おそらく間違いだろう。アンドレ様は亡くなってしまった彼女を、ずっと思い続けているのだから。
私は努めて笑顔で答える。
「私は、アンドレ様がずっと思いを寄せておられる彼女にはなれませんが、少しでもアンドレ様の心の拠り所になれれば嬉しいです」
「……え? 」
フレデリク様はぽかーんと私を見る。もしかして、亡くなってしまった彼女のことは、秘密だったのだろうか。私は言ってはいけないことを言ってしまったのだろうか。
(最悪ですね……口の軽い女なんて)
必死に言い訳を考えている私に、フレデリク様は急に真顔になって告げた。
「アンドレって彼女がいたことあるのか?
そもそも、人を好きになったことがあるのか?
俺は、リアがアンドレの初恋だと思ってたけど」
「初恋!? 」
そう言いながらも真っ赤になってしまう。
その言葉は嬉しいのだが……私はやはり、言ってはいけないことを言ってしまったのだろう。アンドレ様は彼女のことを誰にも言わず、心の奥底にしまっていたのだ。
あたふたしている私を見て、フレデリク様は楽しそうに笑う。
「あーッ!? もしかして、リアもまんざらじゃない感じ!? 」
(ちょっと待ってください!どうしてそうなるんですか!? )
私が慌てているのは、言ってはいけない話をしてしまったからだ。だが、フレデリク様はなにか勘違いをしておられる。
「どうなることかと思ったけど、アンドレにもようやく春が訪れたみたいだねッ!! 」
最後はウィンクまでされた。まるでアイドルのような弾けっぷりだ。そんなイケイケのフレデリク様を見て、思ってしまった。まさかとは思うけど……フレデリク様は、慎司の生まれ変わりではないだろうか。あの軽い感じとか、慎司を思い出さずにはいられないのだが。だが、フレデリク様が慎司の生まれ変わりだったとしても、私はフレデリク様にときめくことはない。こう話している間にも思い出すのは、むしろ……
ここでようやく気付いた。私は、アンドレ様がいない間も、ずっとアンドレ様のことを考えている。フレデリク様の言われる通り、私は本当にアンドレ様に恋をしてしまったのだ。
そう認識すると、ぼっと顔が熱くなった。
(まさか、アンドレ様をす、好きだなんて……)
だが、アンドレ様に恋をするなんて、私も愚かな女だ。フレデリク様は変なことを言うが、アンドレ様が私を好きだなんてことは考えられないからだ。ようやく妻と認知してくださったが、私たちの関係はそういった甘いものではないと、アンドレ様自身が言われたのだ。私はそれを守り、アンドレ様に迷惑をかけてはいけない……
私は色々な妄想を頭に巡らせ、真っ赤になったり沈んだりと忙しかったのだろう。気付くと、フレデリク様が軽く笑いながら私を見ている。それではっと我に返り、平静を装った。それにしても、そのからかうような表情は、本当に慎司そっくりで……
動揺し続けている私に、フレデリク様は少しだけ怪訝な顔を見せた。そして半笑いのまま、驚くべきことを告げたのだ。
「そういえば、酔ったアンドレが一度だけ教えてくれたなぁ。
アンドレってさ、前世の記憶みたいなものがあって……
前世の奴の彼女が、自殺したんだって」
……え!?
もはや言葉を発することすら出来ず、私はぽかーんとフレデリク様を見ていた。フレデリク様は半笑いのまま私に告げる。
「アンドレって、真顔のまま冗談言うからさぁ〜」
いや……冗談ではない。
もしかしたらと思っていたのだが、やはりアンドレ様にも異世界の記憶があるのだ。そして、前世のアンドレ様の恋人は、自殺してしまったのだ……
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