第18話

 その日の夜。私は再び魔獣の森の、精霊たちと接触した場所にやってきていた。一応ルーナには伝えてあるけど、秘密にするようにも言ってある。


「…わざわざ死んだふりまでして、何を伝えたいのか…聞かせてもらおうかな?」


 私がそうつぶやくと、私の背後から精霊が現れる。今日、ルーナが倒したはずの精霊だった。


「…よく、気づいたな」

「まあね。私、これでも勘が鋭い…ことも…まあ、あるから。けど、まあそれよりも前からちょっと引っかかるところはあったよ。精霊は人間の目に見えないくらい自然で精密な魔力操作ができて、ほとんど見えない魔法を発動できるのに、それが割とすんなり見えたりとかさ」


 「見つけた」なんて言えるくらいくっきりとわかる魔法なんて、精霊の魔法ではほぼありえないこと。だから、精霊が意図的に、或いは精霊以外の何かがそうしている…って、考えられる。


「日中の非礼を詫びよう。申し訳ない」

「…まあ、いいけどさ」

「そして、重ねてお願いしたい。どうか私たちを、助けてくれないだろうか」

「…襲ってきた精霊たちに助けを請われてもなぁ…て、言いたいところだけど、面白そうだからいいよ」

「本当か…!?」

「もちのろん。助けたげる。…で、何があったの?」

「…これは、数週間前程度の話だ」


 そうしてその精霊はその時にあったことを語り出す。


「始まりは、一人の男が私たちに接触してきたことに始まる。奴は私たち精霊の中でも一番若いニリアを攫った」

「抵抗できなかったの?」

「…できなかった。奴は魔法を無効化するローブを着ていたようだ」

「魔法を無効化?そんなことできるわけ?」

「可能なようだ、現に…私たちはそれを見た。ローブに触れた魔法が、霧散していくのを」

「ふぅん…」


 魔法…というよりも、魔力に対して働きかける何かだったりするのかな?

 いずれにせよ、敵になるなら厄介そうな相手だね。


「…それで、そうして攫われたニリアは翌朝には戻ってきていた。何かされたかと聞くと、手の甲に刻まれた魔法陣を私たちに見せた」

「…魔法陣?」

「契約魔法だった。それも、かなり効力が強い…奴隷的な契約を結ぶ際のものだ」

「それって、その男の人は精霊よりも遥かに多い魔力量を有してたりするってこと?」


 奴隷的な契約を結ぶ…つまり、隷属魔法を発動する際、そこには圧倒的な力の差が必要とされる。双方の合意が必要な契約魔法を、力の差によって強制的に屈服させて発動するのが隷属魔法だ。


「恐らくはそうだ。そしてニリアは私たちに、奴からの伝言を伝えた。『ニリアは錠となった。鍵は来たる死の時である』とな」

「錠…鍵…よくわからないけど…」

「そして、そのあとにこうも続けていた『錠が開け放たれた時、世界は終わる』と」

「ずいぶん大げさだね、冗談じゃなくて?」

「あぁ。私もそう信じたかった」

「…まあつまり、ニリアと来たるべき死をめぐり合わせると世界が終わっちゃうよってことだね?」

「そうなるはずだ」

「助けてくれって言われてもなぁ…。とりあえず、そのニリアちゃんのことを見せてよ」



 魔獣の森のさらに最奥を進み、ニリアがいるという木の前へやってきた。


「ニリア」


 精霊がその名前を呼ぶと、ニリアがその姿を現す。見た目は私よりも年下の、本当にまだ子供といった感じの外見だ。


「…この子が?」

「はい…私が、ニリアです」

「手の魔法陣を見せてくれるかな」

「…これです」


 そうしてニリアが差し出した手を見る。確かに、かなり強い効力の隷属魔法陣が描かれている。


「…これは確かに、すごい効力だけど…こんな隷属魔法なら、主のそばを離れることも許されないんじゃないの?」

「それが、よく分からなくて…。隷属魔法をかけられているのに、特に何かを制限されているようなこともなくて…」

「男の話に合わせるなら、ニリアちゃんを『錠』たらしめているのが、この隷属魔法ってことになるのかな?」

「どういうことだ?」

「ニリアちゃんを錠、来たるべき死が鍵なら、ニリアちゃんが死ぬっていうことがそのまま、錠を解き放つことになる。隷属魔法、というか契約魔法って、契約を結んでいる両者のうちどちらかが絶命したら強制的に破棄されるようになってる。つまり、隷属魔法の破棄をトリガーに何かが起こるんじゃないかなってこと」

「それだけの為に…隷属魔法を使ったんですか…?」

「…まあ、それだけの為なら適任だよ。いちいち面倒な合意を得る必要もなく、さっと紐づけられるんだしさ」


 となると…世界の終わりっていうのは、結構薄っぺらいトリガーで守られることになるね。


「この辺でさ、世界を滅ぼせるくらい強大な存在を封印してる場所とか、あったりする?」

「…すまないが、そこまではわからない。ここは森だからな…人間の国へ行けば、何かが分かるかもしれないが」


 …ふーむ。わざわざ精霊の死をトリガーにする必要っていうのは何なんだろうかな…。

 ま、いいや。とりあえずは、トリスミアに戻って色々調べてみよっと。


――――――――

作者's つぶやき:リリィさん、とてもすんなり精霊たちを許しましたね…。まあリリィさん的にはこんなものですよ。色々引っかかるところもあったようですし。

…さて、これこっからどうなるのかな…うまく書ききれるといいなぁ…。お楽しみに。

あとエタりかけてすみません。

――――――――

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