第6話

──トロフィス帝国、帝都スフィア某所。


「…ん……」


 カーテンの隙間から差し込む日差しに、目を開く。

 ベッドから起き上がり、大きく伸びをして、壁に立てかけておいた剣を腰に差す。


「…久しぶりに、会いに行こうかな」


 確か、今はトリスミアに居るのよね…リリィちゃん。

 トロフィスからはアラクトへの馬車が出ているはずだし、2日もあれば着く…よね。




 朝の支度を済ませ宿を出る。そのままギルドへ向かい、受付に馬車護衛の依頼を検索してもらう。


「ギルドカードをお願いします」


 指輪に付与された亜空収納からギルドカードを取り出し、受付に渡す。

 依頼の受注を済ませ、午後からの護衛に向けて、色々と準備を済ませておく。


 虐殺の魔女──リリィちゃんと別れ、旅に出て3ヶ月。リリィちゃんと出会ってから、もう4年も経つんだね。


 リリィちゃんと友達になるなんて、想像もできなかった。だって最初は……あの頃は……リリィちゃんを憎み、恨んでいたから。



 トロフィスと他の街をつなぐ街道。そこのスフィアにほど近い広場に、護衛対象の馬車があった。


「あ、来ましたか。はじめまして、私はローツと申します」

「はじめまして、私はルーナフィア。フィアと呼んで」

「フィアさん、よろしくお願いします」


 簡単な挨拶を済ませ、程なくして馬車へ乗せてもらう。

 荷物を運ぶ馬車のようで、野菜や武器などといった物が積み込まれていた。


 程なくして、馬車が動き出す。街道の整備された道に揺られながら、周辺を警戒する。


「フィアさんは冒険者なんですか?」

「冒険者…本業は騎士を」

「騎士…ですか。どこのですか?」


 どこの…私は国に仕えているわけじゃない。


「…虐殺の魔女」

「へ」

「虐殺の魔女の、騎士をしてる」

「…………そ、そうなんですか…」


 ローツの表情が少し強張る。虐殺の魔女、その名前を聞いて、大勢の人が示すリアクションだ。


「大丈夫、殺すつもりはないから」

「そ、そうですか…ならいいんですが…」

「…………」

「……あの」

「なんです?」

「虐殺の魔女は、貴女にとってどういう人なんですか?」


 …どういう人…どういう人、か。


「無邪気で、呑気。マイペースで…掴みどころのない人?」

「そうなんですか…」


 ローツとの間に無言の時間が流れる。馬車は少しスピードをあげて街道を進んでいく。しばらくして、街道は森の中へと突入した。


 それからすぐのこと。


「…、止まって」

「は、はい」


 魔獣の気配を察知し、馬車を制止させる。この感じは…低級。


「あなたは荷物を守っていてください」

「わ、わかりました」

「…来ます」


 生い茂る木々の中から、ハンマーウルフが5体、こちらに飛び出してくる。

 食料品の匂いに釣られてやってきたのかも。


 ああ、モフモフの毛並み…撫でたい…。だけど、まずは護衛に集中しないと。


 鞘から剣を引き抜く。刀身から柄までが真っ白な剣。鍔と刀身には、控えめに銀色の模様が入っている。

 これはリリィちゃんが私にくれたプレゼント。封印の剣…そのレプリカだ。本物の封印の剣は、リリィちゃんのくれた指輪の中、亜空収納に収納されている。

 封印の剣は、リリィちゃんが新たに作り出した封印術式が刻印されている剣。魔力を流さなければただの切れ味のいい剣だ。


「……」


 グルルルと唸り声を上げ威嚇するハンマーウルフ。尻尾が鎚のような形をしており、驚異的な脚力で飛び上がり、尻尾を獲物の頭にぶつけて狩りを行う。

 一体が飛び上がった。そして二体は下からその尻尾を水平に振る。


「──ふっ…!」


 剣を水平に振る。地面に居た二体のハンマーウルフが、上下に分かたれる。魔石が砕ける手応えも、確かに感じた。


 上空から降るハンマーウルフの尻尾を避け、馬車へ向かう残り二体に対し接近する。それを許すまいと、後ろから先ほどの一体が追いかけてくる。


 剣を手放し、魔力を込める。すると剣が3つに分身し、二体のハンマーウルフにそれぞれ一本ずつの剣が飛んでいく。そして、残った一本の剣で追っ手のウルフを切り裂いた。

 すぐに振り向くと、既にハンマーウルフの姿はなく、砕けた魔石と剣が地面に落ちていた。


「大丈夫だった?」

「はい、ありがとうございます」

「…駄目ね、低級に手こずっているようでは」

「て、低級って…ハンマーウルフって一応D〜Cランク相当ですよ…?」

「…周囲の安全は確認できたわ。進んでも大丈夫」

「わ、わかりました」


 ローツが再び馬車を進める。街道に揺られ、気がつけばもう日が暮れ始めていた。


「…夜行性の魔獣は凶暴な種類が多いから、休んだほうがいいと思います」

「そうしましょうか。丁度、ここからすぐに宿場町があります。そこで一泊しましょう」


 あと少しでトロフィスとトリスミアの国境を越えることができる。今日は、国境近くの宿場町、イロに泊まることとなった。


「この辺の山菜は絶品ですよ」

「そうなんですね」


 リリィちゃんへのお土産にいくつか買っていこう。そうしよう。

 馬車の上で揺られながら、そんなことを考えた。

 それからイロで宿を取り、私は案内された部屋から、月を眺めていた。


 今日も…私は、リリィちゃんと同じ夜空の下にいる。私たちは、同じ月を見ている。


――――――――

作者's つぶやき:本日は閑話をお送りしました。ルーナフィア、リリィさんの親友…友達です。

そろそろ、リリィさんとルーナフィアさんが合流しますかね。

ちなみにルーナフィアさんは旅をしています。

――――――――

よろしければ、応援のハートマークと応援コメントをポチッと、よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る