第4話

「お話し…って言ったって、私は近況報告くらいしかする事ないけど…」

「いえ、今回は…少し忠告をしておきたいの」


 それに続けて、レンは今王都で起きていることを教えてくれた。最近、王都の魔法師が相次いで行方不明になっていること。それから、その魔法師が行方不明になる前日には、『次はお前だ』と書かれた紙が手元に来るのだとか。

 その内容を聞いて、思い当たる節があった。


「もしかしてその紙って、これのこと?」


 私はそう言いながら、レンに紙を見せる。ワイバーンを討伐する前、ぶつかった男の人が渡してきた紙だ。

 その紙を見たレンは「遅かった」というような顔をした。


「ええ…そうよ」

「そうなんだ。じゃあ、今度は私が連れ去られるかもってこと?」

「そうなるわね」


 連れ去られたらどんな事されちゃうんだろうね〜?もしかしてあんなことやそんなことされちゃったりとか…ね?


「連れ去られた人たちがどうなったかは分かってるの?」

「いいえ、全く。…行方不明の魔法師たちは、全員まだ帰ってきていない」

「てことは、レベルスも分からないの?」

「彼の精霊でも見つけられなかったそうよ。というより、アラクトの魔法師を攫うのなら、いつか必ず彼の耳には届くのだから、元からその辺の対策はしてたんでしょうね」

「ふーん…ねぇ、レン」

「何?」

「レンがよかったら、今日と明日はレンと一緒に行動してもいい?」

「ええ、もちろん」


 まだ対象になっていないレンと行動すれば、何かあった時にもすぐ対処できるはず。…多分。


「いなくなった人数って何人なの?」

「今のところは31人ね。…早く収まってくれると良いのだけど」

「…レンは大丈夫なの?」

「今のところは、そうね」

「そっか、それならよかった」

「みんなの所に行きましょうか。リリィちゃんが来たら、きっとみんな喜ぶわ」

「そっか」



 孤児院の子たちと遊んでいると、時間はあっという間に過ぎていく。

 太陽が沈み、月が空に浮かぶ頃、レンが孤児院の子たちを寝かしつけ、部屋に戻ってくる。


「いつもはこんなに早い時間にみんな寝静まることはないのだけど…遊び疲れたのかしら」

「かもねぇ、みんな元気そうだったし」

「リリィちゃんもまだ15歳なんだし、孤児院にいてもおかしくない年齢なんだけどね」

「あはは、まあそれはそうかもね~」


 レンと私との間に沈黙が流れる。

 そんな時だった、突然机の上に置いてあった紙が焦げ出し、部屋全体に大きな魔法陣が展開される。


「っ―――!?」


 転移の魔法陣…これだけの魔法が紙に収まってるなんて…。


 一度魔法陣が展開された魔法を止める方法はとても数が少ない。精霊は存在自体が魔力みたいなものだから魔法の発動を阻害・抑制することは簡単らしい(レベルス談)けど。

 斯く言う私にも手がないことはない。こういうタイプには使った事がないけど…まあ物は試しだよね。


「ブラックサイス」


 手元に描かれた少し小さい魔法陣が、私の手元に黒く揺らぐ鎌を作り出す。

 お昼に使ったホワイトサイスはとにかく切れ味が高い鎌。こっちは魔法に特化した鎌なんだよね~、まあ物理的な物は全く切れないんだけどさ。


「とりゃ――!」


 ブラックサイスを振り下ろすと、魔法陣は一撃でその発動を停止した。止められることは想定されてなかったみたいだね。意外と脆いや。


「…これ、魔導複製本コピーブックだよね」


 停止した魔法陣、その丁度中央にある焦げた紙を見ながら、私はレンにそう確認を取る。


 魔導複製本コピーブック。魔法をページに写し取り、一度だけ完全に同じ魔法を使用することができるという、とても便利な代物。ただし、一度使った魔導複製本コピーブックのページは焼けて消えてしまう。加えて、あまりに複雑な魔法は1ページに写しきることはできない。


「そうね…紙が焦げるのと同時に魔法陣が描かれ出したから、間違いないと思う」

「……ねぇ、レベルス。いるんでしょ」


 私が虚空に向かってそう呟くと、淡く縁どられた人型の魔力が徐々に顕現し、精霊が現れる。


「やれやれ、気付いていましたか」

「そりゃね。だってレベルスは私の大ファンストーカー、だもんね~?」

「ですから、あまり人聞きの悪いことを…」


 そう言いかけて、レベルスは呆れたようにため息を吐き「もういいですよ…」と呆れるように言った。


「…レベルス、また新しい精霊を使役したのね」

「えぇ…何分、私は精霊に好かれる体質のようで。今は彼女に私の言葉を代弁してもらっています。執務室からは届きませんので」

「まあ、それはいいんだけど。レベルス、この魔法陣の転移先って分かる?」


 そう言って、ブラックサイスが突き刺さり発動が停止した魔法陣を指差す。


「……分かりました。鎌をどけてください」

「ん、りょ~か~い」


 レベルスの指示に従って、ブラックサイスを魔法陣から引き抜く。

 精霊が魔法陣に手をかざすと、それが淡く光り出し、ブラックサイスが破壊した箇所を修復していく。


「すご…魔法陣って修復できるんだ…」

「こんなことができるのは精霊限定ですよ」


 それから暫く、私はレンと魔法陣が修復されていく様子を眺めていた。


――――――――

作者's つぶやき:なんか執筆に使ってるパソコンのご機嫌が斜めになってしまいました。どうにかしてご機嫌を取りたいのですが、如何せんうまくいかず…しばらくはスマホでの執筆になるので、誤字脱字結構あると思います、ご了承願います。

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