衆合地獄

地面は柔らかかった。

ぐしゃ、という音とともに私は着地する。

液体と固体の間みたいな、なんとも言えない質感が足元に広がっている。


「……これは、粘液?」


一歩歩くたび、ぬちゃ、ぬちゃ、と靴が吸われるような音がする。


「これがなかったら即死だったのかな。よかったのか、よくなかったのか……」


壁には灯籠のような明かりがぽつぽつと並び、文字が浮かんでいる。


『衆合地獄』


「ここ、衆合?」


ちょっと困惑した。


衆合地獄といえば、確か殺人・窃盗・姦淫といった三大罪人御用達の場所だったはず。

殺人は、まあ……間接的には、あるかもしれない。

姦淫は……なにもしていない。

でも、問題は窃盗。


「私、なんか盗ったっけ……?」


考え込んだ瞬間、背後の暗闇から声が届いた。


「……私たちの、心を盗んだから」


間髪入れず、私は答えてしまう。


「……そっか」


その声には聞き覚えがあった。

振り向けば、懐かしい顔が並んでいた。

友達、先輩、後輩。みんな私と親しかった子たちだ。

生前と変わらない姿に、少しだけ安心する。

もし、最後の姿のままだったら──例えば血まみれとか、焼け焦げていたら──私はきっとこんな風に話せなかった。


「……ごめんね」


思わず、そう口にする。

私のせいで、みんなここにいる。


「ほんとに、ごめん……」


ぺこりと頭を下げる。

すると、頭上から声が降ってくる。


「こっちこそ……ごめんね」


え?何が?


顔を上げようとした瞬間、ぬるりとした感触が背中に巻きついた。


「いっぱい、罰することに……なっちゃうと思うから」


「え、ちょっ……と待っ──」


声が、身体が、思考が、彼女たちの“群れ”に飲まれていく。


衆合地獄の、最後の罪。

「姦淫」が今、始まろうとしていた。


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