第10話 忍者、ダンジョン内の異変を見る
翌日、しっかりと休息をとった志信は指揮車のシャワールームを使って、順番にパイロットスーツに着替える。
「志信……ご武運を」
「はい。行ってきます」
不安げに見上げる沙夜に、志信は笑顔で答え、指揮車から出た。
志信は指揮車のトレーラー部分に寝かせる形で載せられたザッシュに乗り込む。
『それじゃ、クエストを始めよう』
ザッシュを起動すると、パーンに乗り込んだ柄蓮から通信が入る。
「了解。ダンソリューション社の依頼は、可能な範囲で機材の回収だったね」
『そうです。回収にあたり、ダンソリューション社から現場に放置された運搬車の使用許可が下りています。現場でこれを自動運転モードで起動し、機材回収の助けとしてください』
志信の視界に、運搬車の映像が映し出された。映像内には起動パスと自動運転モードへの切り替え方法などが記載されており、志信はそれに目を通す。
(ザッシュで接触して、パスコードを流せばいけそうだな)
『異変の影響か、該当エリアでの通信が断絶しているようです。通信の回復と、クライアントによるリモートでの操作も視野に入れていますので、中継機の設置をお願いいたします』
「わかりました」
沙夜の言葉に頷く。
道中に設置する予定の中継機が、ザッシュの背中のバックパック内に装備されている。これを使って地上と通信を行う想定だ。
ふと、映像越しに、不安そうな沙夜と目が合う。
「……戻ったら、またばあやさんのご飯、食べたいですね」
『ばあやに伝えておきます。一緒に食べましょう』
ふっと笑顔を返してきた沙夜に、志信も笑顔を返す。
『イチャイチャしてる』
柄蓮にそう突っ込まれ、ぱっと赤面する沙夜。
『い、いちゃいちゃなんて……』
『イチャイチャしてるー』
なんだか締まらないなぁ、と思いつつ、志信は起動したザッシュをダンジョンに向かってゆっくりと動かした。
ダンジョン内に入り、すぐに異変は察せられた。
「たった一日で……? 洞窟が森になるなんて……」
所どころ人間の手が入り、魔石の採掘場と化していたダンジョンの浅層は、見渡す限り森になっていた。天井が20メートルはある木々よりも高く、明るく発光しているために、密閉空間のはずだというのに昼間のようだ。
驚きの収まらないまま、鬱蒼と茂る草木をかき分け、慎重にザッシュを進める。
『!?』
一歩進めたパーンの足が、柔らかい土を踏んだことで滑る。オートバランサーのおかげで倒れなかったが、ふらついた。
「柄蓮!?」
『大丈夫……土に滑ったみたい』
柄蓮は機体の安定を取り戻し、慎重にパーンを進める。
『思った以上に変化が大きい、気を付けないと』
「そうだね。十分に気を付けよう」
志信と柄蓮は先の見えない木々の様相に、飲まれないように気を引き締めた。
慎重に進行した柄蓮と志信は、機体を操作して、バックパックから中継機を取り出し、木の根本に設置する。
展開された中継機を確認して、志信は通信を入れた。
「沙夜様。中継機を設置しました。応答をお願いします」
『こちら指揮車の沙夜です。志信、音声はよく聞こえていますよ』
『よかった。問題ないみたい』
沙夜の声が2人の元へ届いたことで、志信はほっとした。
『そちらの状況はいかがですか?』
「どうも想定以上の状況のようです。動画を送ります」
志信はここまでの移動の映像データを転送する。
『これは……ダンジョン内が変化を?』
すぐさま映像を確認した様子の沙夜が、息を飲む。ダンジョン内がたった一日程度でここまで様変わりしていれば、そういう反応にもなるだろう。
『依頼主に共有しても?』
『うん。むしろお願いしたい』
『わかりました。すぐに』
沙夜はすぐに対応を決め、柄蓮もそれにGOサインを出す。沙夜はPCを操作しながら、2人に聞いた。
『お二人は……まだ探索を?』
『その予定。まだ、行程の半分も消化してない。環境が先日のままだったら、もう現場についても良い頃合い』
不安そうな沙夜に、柄蓮が現状を報告する。戦闘こそ上手く避けられていたが、生態そのものが変化してしまったようなダンジョン内は視界も悪く、また道もこれまでは目印こそそうないが、各エリア毎に会社所有のエリアだとわかるよう、看板や案内板などが配置されていたが、それらが見つからなかかったり、木々に飲まれて発見しづらくなっていた。
『……それも合わせ、依頼主に報告いたします。依頼の中止もあり得るので』
(その場合は、幾らか貰えるのかな)
依頼主側から中止の要請があるなら、中止でもいいかもしれない。そう志信は考えた。
『あまり期待はしないけど、よろしく』
柄蓮の方は違う考えらしい。志信としては現状どちらでも構わないので、判断は2人にお任せの構えだ。
『わかりました。通信はそのままでお願いします。通信状況が悪くなれば、中継機の設置をドローンが行います』
「お任せします」
中継機を設置したおかげで通信環境が改善したため、ダンジョン内でもドローンのリモート操作が可能になった。設置も場所の指定が済めばドローンが自動で行ってくれるし、以降は沙夜に任せるのがいいだろう。
『それじゃ、多少休憩もできたし、クエストを再開しよ』
「わかった」
志信と柄蓮の2人はクエストを再開し、新規で見かけることになった森林の魔物……鹿や猪の巨大化した初見の魔物だった……を見かけたが、戦闘を避けて進み、時折ドローンに中継機の設置を任せながら順調に進んだ。
『古典的ですが、帰還用の印をつけてみては?』
「ああ、いいですね。試してみます」
データ化したマップがあったため、志信と柄蓮は気にかけていなかったが、沙夜の提案で、木に傷を入れ、案内板や看板代わりにしようとなった。
志信は早速投擲用に用意していた苦無をマウントラッチより取り出し、ザッシュを大木の根本に近づける。ザッシュとパーンが両手を回しても一周しないだろう胴回りと、20メートルは余裕である高さの木に、苦無を突き立てる。
「かっっっった……」
片手では小さな傷しかつかない密度と硬さ。両手握りに変え、ザッシュの重量をかけてガリガリと削る。
「苦無が破損しそう」
『……伐採は専用の機械がないと無理かも』
『企業が欲しがる情報かもしれませんね。地上の木材と性質が違いそうです。少量、持ち帰れますか?』
『いいね。お金になるかも』
志信はそのまま傷を四角く削って開き、板状に木の皮と中の部分を剥がして、パーンのコンテナとザッシュのコンテナに積み込んだ。
その後も中継機の設置に合わせ、印をつけながら進む。
「予想はしてたけど、さっぱり面影がない……」
『座標はあってる。痕跡、あるといいね……』
志信の視界にも、現在のマップ情報と、過去のマップ情報の座標を比較する映像が映し出されていたが、洞窟から見たことがない植生の森林に代わってしまったため、役立つのか不明だった。
「ひとまず、機材が一番まとまっていた駐機場を目指しましょう」
『剣を持った大鬼たちと戦った場所だね。破壊されていたけど、マギワーカーもあったし、見に行こう』
『あ、志信。近くに運搬車の反応があるようです。道中探してみてくれませんか』
「あると便利そうですね。わかりました」
マップ情報を頼りに移動を始め、手始めに運搬車を探す。
「うわ、これは……」
『回収は無理だね』
運搬車を発見した志信と柄蓮は、運搬車を見上げた。
そう。見上げた。運搬車は木々に押し上げられ、ザッシュの全長をゆうに超えた高さで、木に飲まれるような形で固定されていた。
『映像だけ残そうか』
伐採すれば、再利用が可能かもしれないし、破損具合などの判断材料にしてもらうため、木をぐるりと一周しつつ、運搬車の映像をカメラに収める。
『もしかして……』
「言わないで……確定しそう」
気を取り直して……と言いたいところだったが、運搬車があんな状況だったため、残りも似たようなものなのでは? と疑いを持った2人は、木々の上の方も目視確認しつつ駐機場に向かう。
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