第8話

 宿屋の外に出た俺は、真っ先にオーエン市議会保守派筆頭ルベン議長の邸宅に行き、張り込むことにした。


 盗賊ギルドに行ったとしても、拉致犯人が既にルベン議長の家に出発した後の可能性もあって、その場合は盗賊ギルドを張っていても意味がないと思ったので。


 確かゲームではこのクエスト、近郊の都市に買収された改革派議員が銀鉱山の採掘権を売り渡そうとしており、それに反対するルベン議長の愛娘を拉致して脅し、思い通りに決議をしてしまう陰謀を解決せよ! みたいな内容だったはずだ。


 クエストクリア報酬は銀鉱山で銀を掘れるようになること、だったような気がする。記憶が曖昧だ……。いかんせん廃人プレーヤーだった俺にとっては、序盤も序盤のクエスト。些細なクエストなど正直覚えちゃいない。


 だがこの世界はゲームのようであってそうじゃないと神様が言っていたし、死ねばそこで人生終了だ。慎重に行動しよう。


 邸宅の門前には見張りの警備兵がおり下手に近づくことができない。庭にはドーベルマンのような番犬が放し飼いにされており、侵入するのは容易ではなさそうだ。というか、この警備兵のおっちゃん、街中で告発文を渡したおっちゃんじゃないか。


 手紙を読んだおっちゃん自ら警備についているなら、当然ルベン議長の耳にも入ってるはず。まずは一安心。一応念のため、拉致犯人の襲撃がないか見張っておこう。


 俺は近場の物陰に隠れてMPを回復しつつ、完全気配遮断を使って門に近づいて異常はないかを繰り返した。


 それも段々飽きてきたので、俺は張り込みの雰囲気出すために途中にあった露店で買った、アンパンならぬ歯が欠けそうなほど固い黒パンと牛乳ならぬヤギミルクをインベントリから取り出しかじってみた。うん、若干顎が痛いがこれはこれで中々いける。


 露店には薬屋もあった。適当に鑑定してみたら【グリーネ麻痺草の乾燥粉末】と出たので10包ほどを大銅貨1枚で購入しインベントリに入れてある。その他、宿に置いてあった物干し用の麻縄、初期リスポーン地点で絡まれた犯罪者から奪った青銅のナイフも一応インベントリに突っ込んであった。


 装備を再確認した俺はMPが満タンになったことを確認して、再度偵察を決行。


 すると全身黒ずくめの男が、静かに警備兵のおっちゃんに近づくところが見えた。

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