第13話 孫に再会した

 少し進むと広い部屋に出た。薄暗くて良く見えないが、センサーには生命反応がある。


「サシャさん、部屋の左奥の方に二つ、斜め左前に一つ反応がある!」


 一つの反応の方が近い。そっちが健人けんとの可能性もあるな。とにかく、見て確認しなければ。


「了解!」


 サシャさんが言うが早いか駆けだした。俺も後を追う。


「……いた! 一つの方はオークか!」


 サシャさんの向こうに、二メートル近くある、筋骨隆々とした緑色の怪物、表示はオークが見えた。こちらに気付いたらしく、大剣を手に迫ってくる。


「左奥っていうの、もっと遠く? 何も見えないけど!」


 オークの攻撃を受け流しつつ、奥をチラリと見てサシャさんが短く尋ねる。


「いや、そこまで遠くはないから、そこからなら見えるはずなんだが……」


 俺も覗き込んでみたが、センサーに反応のある辺りには何もないように見える。


「センサーの故障……? 誤検出……?」

LRFレーザーレンジファインダーも超音波もサーモグラフィも反応を示している。一斉に故障したとは考えづらいな。姿を隠す魔物というのは聞いたことが無いが、新種の可能性もある」


 東教授の冷静な解説が聞こえてきた。健人にはそんな能力はないし、反応は二つだ。やはり魔物なのだろうか?


「とりあえずコイツはあたしが倒す! ヤマトさんは見えない敵を警戒して!」


 オークの大剣の一振りを斧で受け止めると、彼女は強引にそれをオークに押し込んだ。あんな化け物に力負けしないなんて凄いな。その彼女がそういうなら任せよう。オークの相手をしているところに、不可視の攻撃をされては困るわけだし、俺が対処しなければ。


「ん……?」


 なんだろう? 今、目の前が揺らいだ。その揺らぎの中に一瞬、二つの人影が見えたような気がする。丁度健人くらいの男の子と、女の子の影が。


「健人……そこにいるのか? いたら返事をしてくれ!」


 また揺らいだ。今度はさっきよりハッキリ見えた。やっぱり、一人は健人だ。


「こんな格好だから分からないかもしれないが、じいちゃんだ! 健人を探しに来たんだよ!」

「じいちゃんなの……?」


 か細い声と共に、健人が姿を現した。その隣には健人を咎めるような少女の顔があった。年は健人と同じか少し上かもしれない。十から十二の間といったところだろうか。薄紫色の髪に、紫色の瞳。キトンというのだったか、ギリシャ神話のような白いドレスを着ている。コスプレイヤー、ではないだろう。およそあり得ない髪や目の色も服装も、作り物には見えなかった。とりあえず村の子供どころか、日本人でもなさそうだ。彼女のことは気になるが、それよりも健人だ。


「ああ、そうだよ! じいちゃんだ。色々あってこんな格好だけど。良かった、健人、無事で」

「うん。ミクが助けてくれたんだ。だから大丈夫」


 健人はそう言って、戸惑っている隣の少女を見上げた。


「ありがとう、ミクちゃん」


 俺が礼を言っても、彼女はやはり困った顔のままだった。いや、ますます困った顔をしていた。怯えているようにも見える。まあ、そうだよな。よくよく考えてみたら全身パワードスーツで、顔も見えないし。


「あ、ミク、言葉が通じないんだ。とりあえず英語も通じなかった。名前だけは分かったんだけど」

「そうか……」


 言葉の通じない少女か。ますます怪しい。が、やはり今は考えている場合じゃない。健人も見つかったことだし、早くここから出なくては。そうだ、サシャさんは無事だろうか? 戦闘をすっかり押し付けてしまって、申し訳ない限りだ。


「健人君? 良かった、見つかったんだね!」


 オークを倒したサシャさんがはずんだ笑顔でこちらへ駆け寄ってきた。


「ああ、おかげさまで。サシャさんは無事か? オークを任せてしまってすまなかった」

「あれくらい、どうってことないない!」


 ピッとVサインをしてみせる。だが、彼女の服の腕あたりにはところどころ破れた跡があったし、その周りには赤いシミが出来ていた。


「サシャさん、腕の怪我は大丈夫なのか?」

「ああ、これ。もう塞がっているから大丈夫!」


 サシャさんはやはり何でもない、といった顔をしていた。とはいえ、無理はしているのだろう。でも、彼女が大丈夫というのなら、これ以上聞いても詮無いことだ。


「ところで、その子は?」


 サシャさんがミクちゃんを怪訝な顔で見た。


「ミクちゃんというらしい。健人を助けてくれたそうなんだが、言葉が通じなくて」

「言葉の通じない子……。うーん、もしかして迷宮のある世界の子なのかな……。だとしたら……。ううん、とにかくみんなで戻ろう。ヤマトさん、今度は先に進んで。センサーに反応があったら、あたしに教えて」

「分かった」


 サシャさんが殿を務めてくれるらしかった。元来た方へと足を向けたところで、ミクちゃんが怯えた顔をした。彼女は何もない空間を指して震える声で何か叫んでいた。何を言っているのかは全く分からないが、何かに怯えていることだけは伝わってきた。

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