夕暮れにて ❖
夕暮れ時の町を歩いていた。
民家はまばらで、道の脇には空き地や畑、田んぼが広がっている。そよそよと風に乗って、土や草の香りが漂ってくる。
道端にしゃがみ込む人がいる。その隣には、リードに繋がれた小型犬が大人しくチョコンと座り込んでいる。散歩中の休憩なのだろう。犬種には詳しくない……多分、ポメラニアンとか、そういうの。
撫でたい気もするけれど、犬を飼ったことがないから触り方がわからない。離れたところから眺めていると、別の誰かが来て、犬を触らせてもらっていた。羨ましい。
いつまでもこうして眺めているわけにはいかない。私はここの、空き地に用があるのだった。
犬と飼い主、そして犬を撫でている人の脇を抜けて、空き地に足を踏み入れる。獣道のような通り道があり、その脇には腰高ほどに青々と生い茂った草がビラビラと揺れていた。
空き地内の道を歩く。ところどころ隆起していて歩きづらい。転ばないように慎重に足を進める。
道の先に何があるのか、この空き地になんの用があるのか、それはいまいちわからない。でも、どうしてもこの空き地の奥に行かなければいけない。それは確かなことだった。
道が二股に別れている。どちらに進めばいいのかわからず、不安になる。空き地の入口に目を向けると、相変わらず犬と飼い主、そして犬を撫でる人がしゃがみこんだままそこにいた。すこし、安心する。
意を決して、左に折れた道を進む。数歩進んだところで違和感を覚える。
目の前の道が、動いた気がした。
じっと見ていると、何か細いものがニュッ、と頭を
……蛇だ。蛇が大きな口を開いて、鋭い牙を見せつけるように威嚇してくる。赤い舌がチロチロと揺れる。蛇自体は派手な色ではない、でも毒蛇かどうか、判断がつかない。
思わず後ずさる。隆起した道に足をとられそうになり、足元を見る。
ブワッ、と鳥肌が立つ。道だと思って歩いていた場所は、すべて、蛇の死骸だった。
死骸ならまだいい。中にはまだ生きている蛇がいて、前触れもなく頭を高く掲げては、大口を開けて威嚇してくる。
もし毒蛇だったら。咬まれたら、死んでしまうかもしれない。はやく、逃げないと。
死骸の上を進む。どこに潜んでいるかわからない生きた蛇に怯えながら逃げ続ける。気付けば、空き地の入口方向とは反対に、奥へ奥へと進んでしまっている。だが、入口方向では多くの蛇が立ち上がり、そちらへは行けない。足がもつれてうまく走れない。
空き地の奥は土手になっていて、その先は川だった。深く、流れが早い。昨日大雨が降っていたからだ。
背後を見る。道だと思っていた蛇の死骸の堆積が、一匹の大蛇となりゆっくりと体を起こす。蛇の死骸だと思っていたものは、この大蛇の鱗だったのだ。真っ赤な夕焼け空を背景に立ちはだかる大蛇は、感情があるのか無いのかわからない小さな目で、しっかりとこちらを、獲物を見据えていた。
3メートルはあろうかという大口が開く。鋭い牙に液体が滴る。毒液だ。
食べられる。それとも、背後の深い川に飛び込む。選ばなければ。どちらにせよ、生き残る確率はほとんどない。
思い切って川に飛び込む。流れが早いのは表面だけで、中は底が見えないほど深く、それは川というより海のようだった。
ここまでくれば、大蛇は追ってこないだろう。
ホッとしていると、深い底から大きな影がこちらに迫り……
モササウルスにバクン、と、食べられた。
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