第16話 勝手な作戦
その日の四時間目、体育の授業が終わった後――
花月と勇斗は体育準備室で片付けをしていた。
花月のクラスと勇斗のクラスは合同で体育を行っていたため、一緒にいるのは珍しくなかった。
ただし今日は、少しイレギュラーだった。
花月のクラスの体育委員2人が、謎の腹痛で欠席していたのだ。代わりに手伝うことになった花月は、何も考えず準備室にいた。
勇斗は元から体育委員なので、当然そこにいた。
「あと少しで終わりだね」と勇斗が言いかけた、そのとき――
ガチャン。
突然、体育準備室のドアが閉まった。
「……あれ?」
勇斗がドアノブを回すが、開かない。
「鍵……かけられた?」
しかも、間の悪いことに、電気も消された。
「……まあ、誰か来るまで待とうか」
勇斗が苦笑するように言うが、窓もなく陽も入らない準備室は徐々に冷えていく。
花月は両腕を抱きながら小さく震え始めていた。
「大丈夫? 寒くない?」
「……大丈夫」
花月はそう答えるが、勇斗は心配そうに上着を脱ごうとする。
---
一方そのころ、外では――
体育館裏の茂みで、親衛隊たちが勝利の瞬間を信じて潜んでいた。
「きっと今ごろ勇斗様は上着を脱いで……」
「花月がそれに惚れて……!」
「そうよ、勇斗様のカッコよさがわかれば花月もきっと……!」
親衛隊の狙いは、花月を“恋に落とさせる”ことだった。
だが――
10分後、タイミングを見計らって親衛隊が「知らないふり」でドアを開けると――
そこには理想とはまったく違う光景があった。
「……なにこれ?」
準備室の隅で、花月と勇斗がカイロをシェアしてぬくぬく温まっていた。
「えっ……えっ……カイロ!?」
「でも、それって勇斗様が貸してくれたんでしょ?」
すがるように聞いた親衛隊に、勇斗は微笑んで言った。
「ううん。花月さんが僕にくれたんだ」
「……っ!!」
親衛隊はその場では何も言わず、ただ心の奥で静かに爆発していた。
(次の作戦だ……!)
---
放課後、天気予報通りの土砂降りの雨。
花月が傘を取ろうと下駄箱へ向かうが――ない。
(……ない?)
鞄の中を探すも、入れていたはずの折りたたみ傘も消えていた。
(……盗まれたな)
そこにタイミングよく現れたのは――勇斗。
「僕の傘に入る?」
親衛隊たちがまた木陰で見守る中、彼の声はやさしく響いた。
――だが、理想の展開にはならなかった。
「……いい」
花月はそう言うと、掃除ロッカーの前へ歩いていき、ロッカーの後ろに手を差し込む。そこから傘が出てきた。
「なにそれ……?」
「折り畳みが盗まれた時のための予備の傘。こういう時に備えてる」
またしても、親衛隊の“演出”は不発に終わった。
(まただ……また理想と違う……!)
親衛隊は、悔しさを押し殺しながら次の作戦へ――
---
その後も、日を追うごとに親衛隊の“恋落とし作戦”は加速していった。
が、どれも花月には通用しなかった。
そして――その作戦はついに、怪我をしかねない内容にまでエスカレートしていた。
---
ある日の放課後――
花月と勇斗は、何気なく校舎裏に誘導されていた。
(……またか)
親衛隊が茂みの影で何かを準備し、仕掛けようとしたその瞬間――
「もう、やめなよ」
花月の静かな声が、校舎裏に響いた。
親衛隊は一瞬動きを止め、目を見開いた。
「……っ、気づいてたの!?」
振り返って逃げようとするが――
そこには、詩織と夏美が腕を組んで立ち塞がっていた。
「……逃がさないよ?」
親衛隊は絶望の表情を浮かべながら、立ち尽くす。
「……あなたたち、迷惑だよ」
花月の言葉は、まっすぐで静かだった。
「わ、私たちは……! 勇斗様のためにやったの!」
叫ぶように言ったその声に、勇斗は目を丸くした。
「……僕の、ため?」
花月は小さく溜息をついてから、淡々と言った。
「じゃあ、こう言った方がわかるかな。――それ、ありがた迷惑だから」
親衛隊の目が揺れる。
その一言が、今まで自分たちがやってきた“好意のつもり”の行動を一刀両断した。
沈黙の中で、ようやく自分たちの“やりすぎ”に気づく彼女たち。
そして――
花月の背中を見つめる勇斗の瞳には、さらに強く引き込まれていく気持ちが芽生えていた。
(やっぱり……カッコいいな)
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