第2話

※グロ注意




 転送門の光が収まると、目の前には王城の廊下が広がっていた。

 見慣れているはずのその空間が、今日はなぜか――“異様”だった。


 重たい沈黙。

 空気に貼りつくような魔力の圧。

 兵士たちの視線が、警戒と緊張に尖っている。


「ユリウス=グレイヴ。王の間へご案内します」


 近衛兵が硬い声で言う。

 いつもは見せるはずの敬礼もない。呼吸もぎこちない。


 ――これは、ただの案内じゃない。

 何かを“監視している”目だ。


 胸の奥がざわつく。不安と疑念を抱えたまま、俺は王の間へと向かった。


 扉が開かれる。

 差し込む夕陽の中、王――エリアス・アークライド陛下が玉座の前に立っていた。


「来たか、ユリウス。急な呼び出し、すまなかったな」


「いえ、陛下のためなら。ご用件は……?」


 王の表情は、微笑を湛えながらもどこか疲れていた。

 そして――覚悟を秘めた目をしていた。


「君には、いずれ“公にはできない任務”を託すつもりだった。だがその前に、話しておきたいことがある」


「……任務、ですか?」


 王は窓の外に視線を向ける。

 その背中は、かつて見たどの戦場よりも重たかった。


「私は、王としての責務を果たせているのか悩んでいる。魔力至上主義の腐敗、貴族たちの暴走……。正義を貫くには、私では力が足りないのかもしれん」


「……そんなことは……!」


 「だが、君がいれば変えられると、私は信じている。ユリウス。君にはこの国の“剣”としてだけでなく、“未来”を託したい」


 心が震えた。

 この人は俺を“兵器”としてではなく、一人の人間として見てくれている。


「……その任務、光栄です。必ずや果たしてみせます」


「ありがとう。やはり、君を呼んでよかった」



 ――その瞬間。


 空間が、歪んだ。

 結界が破られる感覚。

 殺気が奔る。剣を抜くよりも早く、危機が目前に迫っていた。


「伏せろ、陛下ッ!!」


 叫ぶより先に、王の背後から“それ”は現れた。

 黒装束に仮面。異常な魔力の密度。

 その剣が、王を狙って放たれる。


 反射的に《断界》を発動する。

 魔力を集中、剣に流す――はずだった。


 だが、視界が、白く爆ぜた。

 脳を突き刺すような干渉魔力。

 感覚が、思考が、言葉さえも破壊されていく。


 ――気づけば、俺は立っていた。

 足元には、血の海。


 王が倒れていた。

 胸を貫かれ、沈黙のまま動かない。


 そして――俺の手には、血に染まった剣が握られていた。


「王が……殺されたッ!」

「犯人は、ユリウス=グレイヴだ!!」


 次々と兵士がなだれ込む。

 誰もが、俺を“犯人”と見なして叫ぶ。


 ――頭がぐらつく。視界が波打つ。


 だが、目の前には確かに“王の死体”と、“俺の剣”がある。


 

 本当に――俺がやったのか?


 記憶は歪んでいる。

 あの瞬間、何かに強く干渉された。

 白い光。脳を貫く痛み。言語も、思考も、全て遮断される魔術。


 だが、ひとつだけはっきり覚えている。


 “あの目”だ。


 冷たく澄んだ、何の感情も宿さない瞳。

 殺意ではない。憎しみでもない。

 ただ、目的のためにすべてを切り捨てる者の目――


 記憶を消されても、思考を奪われても。

 あの目だけは、焼き付いている。


 俺は、見た。

 王を殺したのは、俺じゃない。


 けれど、誰も信じない。

 仲間も、教官も、国さえも。

 俺の言葉より、“仕組まれた証拠”のほうが重かった。


 怒りが、喉の奥を灼く。

 王を奪われた。名誉も、未来も。

 すべてを――踏みにじられた。


 これは、正義のためじゃない。国家のためでもない。


 これは、俺の怒りの剣だ。


 あの日見た“目”。あの冷たい視線だけは、決して忘れない。


 俺は、必ず――あの目の主を見つけ出す。

 そして、自分の手で、斬る。


 それが俺に課せられた、たった一つの復讐だ。

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