第29話 剣闘技大会

 エルダーツリーの前に作られた特設ステージには、荒くれものの冒険者たちの戦いを一目見ようと村中から大勢の人々が集まっていた。


「くそッ! こんな若造に負けちまうとは!」


「へへん! マリ―ブ村の最強剣士、ダリア・パニス様を舐めんな!!! オレっちはな、いずれこの世に敵なしの天真爛漫な冒険者になるんだからな!」


 ステージ下のセコンド席にいた相棒のラザルス・ラックは、それを聞くと思わずこう突っ込んだ。


「おいおい。それをいうなら天下無双とかだろ……」


「フッ、同じようなもんさ」


 相手の冒険者がステージから退場すると、代わりに派手な服に身を包んだ司会進行役の村長が駆け足で登って来た。

 そしてマイクを使って、観客たちの興奮をさらに煽るようにこう言った。


『すごいぞー! 今回の剣闘技大会は大番狂わせじゃぁッ! まさか大会初出場の若手冒険者が決勝進出を決めてしまうとは!』


(うぉおおおおお!!!)


 観客たちは一斉に歓声を上げる。


「まあなっ。あれくらい楽勝だぜ」


「決勝も頑張れよ、ダリア」


「おう!」


 ダリアとラザルスは互いの拳を突き合わせる。


 ステージ端から中央に戻ると、力の余っていたダリアはその場で何度もジャンプをし始めた。


「よぉーし。オイじじい、次の相手は誰だ?ちゃっちゃと優勝して、商品は俺たちがもらうぜ」


『フォッフォッフォ。威勢がよくて良いのぉ。 だがそううまくいくかな?』


「なんだと?」


 すると村長は、再びマイクを片手にこう言った。


『ここまで破竹の勢いで勝ち上がってきた剣士ソードマン、ダリア・パニス。だが次の相手は一筋なわではいかんぞ! ──上がってこい!』


 村長が腕を振って合図すると、反対側からは漆黒の兜をつけた冒険者がステージに登ってきた。

 兜なのに鎧ではなく花柄ローブを身に着けており、なんとも珍妙な恰好だ。


「ああ。あなたですか」


「は? 誰だお前?」


 ステージの上で相対する二人。

 その間、村長は語気をだんだん強めながら、選手紹介のようなものを行っていた。


『驚くべきことに、この漆黒の兜をつけた戦士もまた今大会初出場だ!コイツは余程幸運値が高いのかもしれない!いずれの対戦相手も突然原因不明の気絶で失格となっているのだ。よってコイツは準決勝までは、まだ一回も剣を抜いていない!しかも、持っているのは村のお土産屋さんで売っている子供用の木刀という始末!コラァ!なめてんじゃねーぞ!』


「「「ブー、ブー」」」


 観客席からは大ブーイングの嵐が巻き起こる。


「ははは、困りましたねぇ」


 兜の戦士は、そう言いながら頭をポリポリと書いた。


 ─なんだコイツ。おかしな奴だぜ─


 ダリアは対戦相手の異常さに警戒心を抱きながらも、腰に差していた片手剣を抜いて斜に構えた。


 ─覇気を全く感じねえ。つえーのか?よえーのか?─


 ダリアの様子を見ると、兜の戦士も形だけだが木刀を前に伸ばす。

 そのとき戦士はこう考えていた。


 ─フフフ、彼には悪いですが、また手刀で決めさせてもらいますかっ★─


 しかしそれが見透かされていたかのように、その直後、村長は戦士にこう言った。


『一応警告しておくぞ。またさっきまでのような地味でクソつまらない戦いをみせたら、その時点で失格とするのでそのつもりでいるように!』


「…………」


『それでは決勝戦! 狂戦士バーサーカークライシスVS、剣士ソードマンダリア! 剣闘開始じゃぁぁァァ!!!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る